「じゃ、いつも言うようだけど、
私と咲夜が留守の間も、門の番をお願いね」
「はい、任せてください!」
「そう言って、また居眠りしないでよ?」
「大丈夫ですよ、咲夜さん!今日はあんまり眠たくありませんし」
「そう・・・じゃあ、今日も任せたわよ。参りましょう、お嬢様」
「そうね、咲夜」
紅魔館の門番、美鈴に念を押すように言うと、
日傘を差した紅魔館の主レミリアは、その僕の咲夜と共に、紅魔館を離れていく。
今日は気晴らしに咲夜と一緒に散歩に行くのである。
「行ってらっしゃいませー!お嬢様ー!咲夜さーん!」
そんな2人の姿を、元気に手を振って見送る美鈴。
…が、突然その表情が曇り、元気無く手を下ろしてしまう。
原因は、咲夜と一緒にあるくレミリアの様子にあった。
今のレミリアは楽しげな表情を浮かべながら、咲夜と一緒に歩いていたからである。
その姿に、思わず美鈴は面白くなくなってしまった。
何故なら、彼女はレミリアが好きだった。
まだ咲夜が来るずっと前から、門番を続けていた美鈴は、
時にドジを踏んでレミリアに叱られる事もあったが、
しっかり番を勤めた際にはちゃんと褒めてもらえた。
そして、フランが暴走した際には頼りにされたり、
稀に外にばかりいて大丈夫なのかと、心配を掛けられたりした時もあった。
恐るべき吸血鬼貴族でありながら、時たま見せる彼女の優しさに、
美鈴は徐々に惹かれて行き、いつの日か彼女への恋心が芽生えた。
だが、自分は門番で、レミリアは貴族。
そのうえ女同士…
位の違いと性別の壁があったが為に、美鈴はレミリアに想いを伝えるのに抵抗があった。
彼女に生意気で気持ち悪い奴に思われそうで、怖かったからだ。
…だが、咲夜がやって来た事により、彼女はそうしなかった事を後悔する事となった。
初めのこそレミリアと咲夜は、主に従う従者とそれを従える主と言った、
普通の間柄であった。
が、どんな事があってもレミリアに忠誠を誓い、
彼女の従者として尽くそうとする咲夜を見て、
レミリアは彼女に絶対の信頼を置くようになり、
そして心配して気に掛けるようになった。
そして、咲夜とレミリアはその関係上、
一緒にいる時間も多くお互いに接する時間も沢山あった為に、
両者の距離は一気に近くなった。
その為にレミリアは咲夜と共にいる時間を望むようになり、
咲夜もまた彼女と一緒に過ごす時間を望むようになった。
その為にレミリアは、咲夜と過ごす時間をかなり楽しむようになった。
そして、そうして行く内にレミリアは、
咲夜を家族…いや、それ以上の者として見るようになって行った。
一方で咲夜もまた、彼女に長い間尽くしていく内に、
いつの間にかレミリアへ、忠誠心以上の感情を持つようになった為、
まさしく両者は両想いの関係になった。
今のところ、この2人は今のお互いの気持ちを伝えてはおらず、
普通に振る舞ってはいるものの、
恐らく既に互いの胸中を理解しているであろう。
そんな彼女ら…否、レミリアに美鈴は悲しくなったのだ。
何故、咲夜より、付き合いが圧倒的に長い自分では無いのか?
何故、後からやって来た人間の咲夜を、レミリアは選んだのか?
咲夜を特に快く思っていない訳ではない美鈴であったが、この時だけは彼女が憎かった。
知らないとは言え、後からやって来て、自分の想い人を横取りしたのだから…
だが…
一番悪いのは、想いを伝える勇気がなかった自分…
咲夜との関係を見る限り、結局レミリアにも同性にも、
位の違う相手にも恋をする感情があったのだ。
勇気を出して想い伝えていれば、こんな事にはならなかったはずだ。
咲夜を憎むのは、ただの八つ当たりでしか無い。
まさに、自業自得だ。
「お嬢……様…………」
だが、それでももうレミリアが自分に振り向いてくれる可能性がなくなったと考えると、
美鈴は悲しくてしょうがなく、つい涙を流す。
お嬢様…
いや、レミリア様…
私は、あなたを愛していた…
なのに…なのに…何故?
美鈴の涙はしばらく止まらなかった。
…と、その時だった。
美鈴は涙を流している中、
ふと紅魔館に向かって飛んでくる1つの影が目に入る。
それはほうきに乗った、黒と白の服を着た金髪の魔法使い、霧雨魔理沙だった。
恐らく、また大図書館の本を狙いにやって来たのであろう。
それを見た美鈴は、泣いている場合じゃないと涙を拭い、
魔理沙を迎え撃つべく、その場から飛び立ち、魔理沙の前に立ちふさがる。
「待ちなさい、そこの魔法使い!」
「また来たか、門番さんよ。
私はパチュリーから本借りないといけないんだ、邪魔しないでくれ」
「そんな事、この紅美鈴が絶対にさせないわ!」
「やれやれ…今回もアンタを倒さないといけないようだな。
じゃ、弾幕勝負と行こうか?」
「望むところよ!」
かくして、魔理沙の紅魔館侵入を阻止するため、今日も美鈴は門番の仕事を全うする。
レミリア様…
もう、貴女が私に振り向いてくれないのは分かっています…
でも、それでも構わない…
私は愛する貴女の為、この館を一生お守りします…!
…おしまい…
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