副編集長の鎌田様作・アニメ版星のカービィ 第2期予想小説
第33話
〜刃射尾簾羽唖狗忍者軍団、参上!!〜



 〜デデデ城 玉座の間〜

「なにぃ!?ヤミカゲがまたここへ来ておるだと!?それは本当かぞい!?」
「はい、陛下。私たちの会社の方で彼と協力関係を結んで、今そちらのお城に隠れてもらってます♪」
 ププビレッジは現在、カービィたちが上級ランク魔獣たちを追い払って数分経ち、時刻は夕方に差し掛かり始めて午後4時頃を迎えてようとしていた。
 デデデ大王は、魔獣を注文しようとMTSに連絡を入れたところ、応答したグリルの発言したことに目を大きくして驚いた。
「カービィを倒してくれるのならそれで良いのだが……ヤミカゲってどこの誰だったかぞい?」
 ズコォ!!
 デデデ大王の口から突然発せられた、惚けたような言葉に彼の横にいるエスカルゴンと、ディスプレイの向こうにいたグリルは同時に後ろの方へとズッコケた。
「……どうしたぞい?」
「あ、あのぉ〜…陛下?ヤミカゲを覚えてらっしゃらないのでゲスかね……?」
 エスカルゴンは身体を起こしつつ、デデデ大王にヤミカゲのことが頭に入ってないかどうかを訊く。
「うぅむ……遠い記憶にあるような、ないような……ハッキリとはわからんぞい」
「(で、出番は一話きりだったけども…まさか忘れてるなんて;)」
 腕を組み、デデデ大王はヤミカゲのことを思い出そうとするが、頭の中のモヤモヤが晴れることは無かった。
 ディスプレイの向こうのグリルは体勢を立て直しつつ、メタなことを考えて苦笑していた。
「ヤミカゲは、以前ホーリーナイトメア社がここに送ってきた凄腕の忍者でゲスよ?」
「……おぉ〜、それぞい!やっと思い出したぞい!でかしたぞい、エスカルゴン!」
 エスカルゴンの言葉を聞き、頭のモヤモヤが消えたデデデ大王は嬉しくてしょうがなかったのか、喜びを表情に現しつつエスカルゴンの目の辺りを掴んで前後に揺らした。
「痛い、痛い!そこを持っちゃダメでゲスよ、もう!!」
「デハハハハハハ!!」
 ヒュン ドスン!!
 痛がるエスカルゴンから、笑いながらデデデ大王は彼を解放し、絨毯に放り投げた。
「あ〜、イテテ…。ヤミカゲは一度私たちに姿を見せた後は全く見なくなってしまったんで、あの後どうなったのでゲしょうかと気になってたんでゲスが……MTSの方にいたとは驚きでゲスね〜」
 放り投げられた後、エスカルゴンの方も疑問に思ってたことがグリルの言ったことによって解決し、スッキリしたような表情をしていた。
「はい!そういうことで、私たちの仲間に加わったヤミカゲとその仲間たちの活躍にご期待ください!」
 ブツン!
 それだけ言い残すと、グリルはディスプレイから姿を消してしまった。
「うん?仲間たち?仲間たちってことは……城に来ているのはヤミカゲだけではないということかぞい?」
「さぁ〜……何とも言えないでゲスね〜…。とりあえずヤミカゲがどうしてくれるかに期待するほかはないようでゲスな」
「ぐふふ……楽しみぞい」
 グリルが詳しく説明をしなかった『ヤミカゲの仲間』について、自分たちにとっては謎が残ってしまったデデデ大王たちではあるが、それでもグリルの言うとおり、彼らの活躍に期待して、不敵な笑みを浮かべていた…。


 〜フームの部屋〜

 フームの部屋には、現在先刻の敵との戦いで負傷したナックルジョーとシリカの2人が運び込まれていた。
 カービィはブンと一緒に違うところで遊んでおり、外の廊下の方から2人の声が聞こえてくる。
 メタナイト卿は、部下の騎士達と共に自分の部屋にいるらしく、この場にはいない。
 フームは薬や包帯などを持ち込み、2人の怪我の手当を行おうとしているようだ。
「じゃあナックルジョー。怪我している部分を見せてほしいから、服を脱いでくれる…?」
「え?ぬ…脱ぐのか?」
「あ、当たり前でしょ!そうしないと怪我の治療が出来ないわ!」
「あ…あぁ…」
 ジョーは異性の前で服を脱ぐということに戸惑って頬を赤らめ、フームもそれを察したのかほんの少し動揺した。
 ジョーは仕方なくフームに言われた通り、上半身の紺色のタンクトップを脱ぎ、両手にはめているグローブも外し、短パンと靴も脱ぎ、白いブリーフ一枚だけを穿いた姿になる。
 服を脱いだことによって露になったジョーの身体は、少年にしては非常に筋肉質であり、全身が鍛えられている特に腹筋は6つに綺麗に割れている。
 彼のその逞しい身体をフームとシリカの2人は思わず見入って、ジロジロと見つめ始める。
「な…なんて言ったら良いのかしら…。やっぱり貴方すごい鍛えてるのね…」
 フームはジョーの身体にびっくりしている様子だった。
「あ、当たり前だろ!トレーニングはいつも欠かさずやってるし…」
「ふーん…ジョーの身体、初めて見た…」
 フームと一緒にジョーの身体を見つめていたシリカは彼の割れて硬くなっている腹筋に興味津々なようで、右の人差し指で少し触れた。
「わ!コッ、コラ!勝手に触るな!!」
「え!?」
 腹筋を触った途端、急に叫びだしたジョーにシリカは思わずひっくり返りそうになる。
「ったくぅ…女に身体を見られるだけでもこっちは恥ずかしいってのに、いきなり触ったりすんなよ……。早く…早く終わらせてくれ……」
 異性相手にはまだまだ初心な少年のジョーは女性2人に身体を見られた挙句に軽く触られて、とても恥ずかしそうに頬だけでなく、顔全体や耳まで赤くし、2人から目を背けてしまう。
 フームはジョーの筋肉が少し気になりつつも、彼の怪我の手当てを開始する。
 ジョーは身体のあちこちにマスコローゾによって負わされた傷が確認出来た。
 フームはその傷の1つ1つに痛み止めの薬を塗布していく。
 その間も、一部の塗り薬はフームが指でそのまま塗りつけたため、ジョーはフームに身体を触られる度にドキドキさせられてしまった。
「うぅ……」
「ジョー?薬が傷に沁みてるの?大丈夫、すぐ終わるから…ね?」
 横ではシリカがジョーは一部の刺激が強い薬が傷口に沁みてそれを我慢してるのではないかと思って気遣うように声をかけてくる。
 ジョーにとってはそれもあるのだが、女性のフームに身体を触られていること、最近異性として意識しだし始めた女性、シリカがすぐ横の近い距離で優しく話しかけてくることに気が高ぶってしまい、頭がどうにかなりそうになっていた。
 ナックルジョーは、まだHN社があった頃、ポップスターでカービィやメタナイト卿たちの協力もあって、強敵のパワードマッシャーを倒した。
 パワードマッシャーを倒した後は、また魔獣ハンターとして宇宙各地で戦っており、その最中にシリカと知り合った。
 出会った当初はお互い性格からか軽い口喧嘩が絶えなかったが、一緒に戦っていくうちに徐々にお互いを良きパートナーとして信頼するようになる。
 以降は協力することもあれば別々に行動することもあったが、現在は、ジョーはMTSによってポップスターに送り込まれて彼らによる洗脳から解放された後、ここに留まったことによって、更にシリカと一緒に過ごす時間が増え、最初は『仲間』『友達』『パートナー』として見ていなかった彼女を、心の底から『女性として』考えるようになってきたのだ。
 シリカが自分のことをどう思っているのかが気になっているジョーであったが、シリカにそのことを聞くのが恥ずかしくて、未だに直接聞き出せていないらしい。
 そんなこんなでジョーはフームとシリカの所為で気が高ぶりつつも、これまでシリカと過ごしてきたことを心の中で思い返しながら治療を受け、フームがジョーの身体に薬を塗り終えた後、包帯を傷口を中心とした彼の身体に巻き付けて、ナックルジョーの治療は終了する。
「はい。じゃあ次はシリカの番よ。ジョーは悪いけど、しばらくちょっと離れて、あっちを向いててもらえるかしら…?」
「ふぇ!?…あっ、あぁ…わかった」
 ナックルジョーはフームとシリカが座っているところから少し距離を取った後、彼女たちがいる方向とは反対の方を向いた。
 ジョーがこちらを見てないことを確認したフームは、シリカの応急手当てを始める。
 シャードロの攻撃によってシリカは身体を二ヶ所貫かれており、現在まで布で簡単に血を止めていたが、布を外すと傷口から血がドクドクと流れ始めた。
「ぐっ………!」
 深い傷が外気に晒されたことによって、シリカは痛みで顔を歪める。
「出血が酷すぎるわ……。服を脱がすけど…いいかしら?」
「う、うん……」
 フームはまず最初にシリカの上半身を守っている緑色のプロテクターから外し始める。
 続いて、その下のオレンジ色のボディースーツのチャックを下ろし、そのまま脱がせた。
 その後はシリカが自分でグローブを外し、靴も脱いだ。
 シリカは胸にサラシを巻き、下半身には白色の下着を穿いただけの状態になった。
 フームが見たシリカの身体は、やはり彼女は戦士であるため、女性にしては鍛えられており、全体的に引き締まっていて、腹筋もうっすらと割れて硬くなっていた。
 同じ性別同士の彼女らにとっては気にすることは何もないが、同じ部屋にいて、その会話をすぐ傍で聞いていた男性のナックルジョーには非常に辛かった。
 『服を脱がす』という言葉を聞いて、純情な彼はそれだけでもシリカに対するいやらしい想像が頭の中を駆け巡り、今すぐにでも理性が吹っ飛びそうになる。
 心臓の鼓動はどんどん早くなってバクバク音を鳴らし、自身の顔がみるみる紅潮していき、身体が次第に熱を帯びていくのも感じ取れた。
 それは彼が思わずシリカの裸体を思い浮かべて興奮し切っている証拠であった。
「ぐぁ…!が……うぁ……」
「しっかりして…!」
 フームが使った痛み止めの薬が沁みて、それに喘ぐシリカ。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
 シリカのその苦しむ声を聴いて、ジョーはより一層顔を赤くし、息を荒くしていく。
 しかしそれでも彼は彼女らに自分の状態を悟られないように『絶対に見てはいけない』と自分にストッパーをかけるため、逆方向を向いていながらも顔を伏せている。
 そんなちょっとしたことでも興奮してしまうほど、初心な少年の我慢は限界だったのだ。
 興奮してはいけないというのは自分でもわかっていることなのに…。
 ジョーが自分との戦いに苦しんでいる中、ようやくシリカの治療も終わった。
 シリカの治療は、彼女は全体的な傷の数こそジョーよりは少ないが、シャードロによって身体を一部貫かれていて傷が深いこともあり、全身に傷があるジョーよりも少しだけ時間がかかってしまった。
「ジョー?シリカの治療が今終わったから、もう戻ってきて良いわよ?」
「ふぅ…ふぅ…ふぅ…」
 フームは、後ろの方を見て顔を伏せているジョーに声をかける。しかしジョーには聞こえてないらしく、反応が無い。
 シリカがジョーの横までやってきて…。
「ジョー…?」
「(いや、俺は見ない。断じて見ないぞ……!)」
 シリカは近くでジョーに普通に話している時の声の大きさで話しかけるが、やはり反応は無し。
 一方でシリカの治療が終わったことを知らないジョーはまだ自分に何度も『シリカの方を見てはいけない』と心の中で呼びかけ続けている。
「………」
 普通に話しかけても気付かないジョーに対してシリカは、深く息を吸い……。
「…ジョーッ!!!私たちの声、聞こえてるの!!?
「ぅわッ!!?」
 息を吸ってからシリカはジョーの耳元で、それも大きな声で彼に向かって叫んだ。
 これには流石にボーッとしていたジョーも意識を取り戻した。
「な…なんだよ、急に耳元で…」
「私たちがさっきから呼んでるのに、あんたは返事しないから私が大声で叫んだんだよ!」
「…あ、そうだったのか。その様子じゃ治療も終わったみてぇだし、悪かった………って!?」
 声のした方向を振り向いたジョーは思わず言葉を詰まらせた。
 先程自分がいやらしい想像をしていて、それも異性として意識しだした女性であるシリカの顔が間近にあったからだ。
 シリカの治療が終わったと聞いてやっと熱が冷めてきたジョーであったが、再び身体全体がカァッと熱くなり、顔も真っ赤になっていくのが自分でも感じ取れていた。
「あ…あ、シリカ……?」
「…ジョー?どうしたの?急に顔を赤くして…」
「い…いや!別に!なっ…なんでもねぇよっ!!…ただ、振り向いたら突然、お前の顔がすごい近くにあって………ちょっとビックリしただけだ!!!」
「……ヘンなの…。本当にそれだけ?具合が悪いとかはない?さっき反応が遅かったのは…」
「あ、あぁ!そうだよ!病気とかもしてねぇから!お前やフームの声に気付けなかったのは、ちょっと考え事をしてただけなんだ!!」
「そっか。なら、良いけど」
「………………」
 シリカはそのようなジョーを驚かすつもりは全く無かったようで、顔を赤らめてるジョーをキョトンとした表情で見ていたが、対するジョーは顔を赤くして、シリカにそっぽを向いて彼女に言い訳をしていた。
 焦ってつい『考え事』とそこについては本当のことを言ってしまったが、その内容がシリカに対するいやらしい想像だったなんて、本人の前で言えるはずもない。
 シリカと、話を横で聞いていたフームは何とか納得してくれたようだが、もしも考え事の内容を訊かれていたらどうなっていたか。
 ジョーはそうならなかった分、一先ず安心して、やがて興奮の方も納まっていき、気持ちを普段の状態までに落ち着かせた。
「2人とも、今日は部屋の中で大人しく安静にしているのよ?動くと傷口が開いちゃうかもしれないから…」
「あぁ、わかってる」
「うん、今日はもう早く寝ようかな……」
「今日は晩御飯を皆で食べたら、シリカの言うとおり早めに寝ましょ?」
「そうするか」
 フームの提案してきたことにジョーが賛成し、ジョーはポップスターに来てから寝室として利用しているブンの部屋へ行き、シリカはそのままポップスターに来て以降寝る場所として使わせてもらっているフームの部屋に残った。
 その後はデデデ城の住人達は夜まで普段通りの生活を就寝の時刻まで静かに過ごした……。

 数時間後。外はすっかりと暗くなり、城の住人達は警備をしているワドルディたちを除いて全員床に就き、熟睡している。
 そんな中、城の中を音を立てずに動き回る2つの影があった。ヤミカゲに率いられていた忍者たちである。
 2つの影は流石『裏の仕事のプロ』と言われる忍者なだけに、厳重な警備が敷かれている筈の城中を誰にも気付かれることなく縦横無尽に動き回り、警備員のワドルディ兵士がちょうど見張っていない死角である窓のところ動きを止めた。
 月明かりに照らされて、彼らの姿が確認出来た。一方は一頭身で青い忍者服に、もう一方は同じく体格は一頭身だが、白い忍者服に身を包んでいる。
「白忍。ヤミカゲ様に命じられた作戦通りに行動するでござるよ?拙者としては、『忍び』なのに忍ばないのは、拙者の忍道に反するから嫌でござるが……」
「青忍。これは任務ですよ?それからヤミカゲ様の命令にはきっちり従わなければいけないでござる」
「それじゃあ、やるでござるか。まずは分身の術を使って派手に暴れ回り、見張りの兵士の目を釘付けにするまでが拙者たちの仕事でござる」
「私は奴らが寝ている間に仕留める方が楽そうだと思いましたのでござるが…それではダメだったんですかね?」
「それはヤミカゲ様も仰ってたでござるよ?『それではMTSから貰った力を試す意味がない』って。あとは『拙者たちの出る幕もなくなる』とも聞いたでござる。話を聞いてなかったんでござるか?  それに、ヤミカゲ様の標的はあくまでも『星のカービィ』と『メタナイト卿』のみでござる。他の邪魔な奴らの相手は拙者たちがやらなければいかんのでござるよ?」
「あ、そういえばそうだったような気もしますね。でもそれなら昼戦えば良いでしょうに……」
「とにかく、今はヤミカゲ様やワイユー殿の命令には従うことが拙者たちのやらなければいけないことでござる!拙者たちが動かなければ他の赤や桃や黒も動くことが出来ないでござるからね!」
「そう……そうですね!命令や任務はきっちり果たさないといけないですね!刃射尾簾羽唖狗(バイオスパーク)忍者軍団の腕の見せ所でござります!」
 彼ら2人の話から、彼ら一頭身でそれぞれ違う色の忍者服を纏っている集団は『刃射尾簾羽唖狗(バイオスパーク)忍者軍団』という集まりであり、彼らはヤミカゲの命令に従っているらしい。
 そんな彼らだが、ついにヤミカゲから命じられたという『作戦』をこれから実行しようと言うのだ。
 青色の忍者服を着た者は、白色の忍者服を着た者の元気の良い返事を聞くと頷き、複数に分身した。
 それを見た白色の忍者服を着た者も続いて複数に分身する。
 2人の複数の分身体は、忍者服の中から掌で抱えられるほどの大きさの球状の道具を取り出して、それぞれ今いる位置から2人の分身体の1人ずつがその場に残り、それ以外は城の各地に散らばった。
 その隙に本物の2人はまた別の場所に向かっていき、本物の青色の忍者服を着た者が、離れた直後に自分が先程いた場所に残した自身の分身体に合図を送る。
 その瞬間、その場に残った2人の分身体は両手に持った球状の道具をそれぞれ放り投げる。
 放り投げられた球状の道具はそのまま壁へ飛んでいき…。
 ドガドガドガドガァァァンッ!!
 球状の道具は大きな音を立てて爆発し、それに続いて他の場所でも次々と爆発が起きる。
 別の場所に向かった2人の分身体が音を聞いて自分たちの方も爆発させているのだ。
 城内の各地で大きな音がしたため、警備をしていたワドルディは途端に慌ただしく動き始める。
 城内は静まりかえっていた雰囲気から一転してパニック状態に陥った。


 爆発音で城内が混乱したことで、青と白のそれぞれの忍者に続いて動き出した者たちもいた。
 その者達は三人で行動しており、1人は最初に動き出した2人と体格は同じであるものの赤い忍者服を、もう1人は同じく体格は一頭身で黒色の忍者服を、最後の1人も体格は同様でピンク色の忍者服を着ている。
 彼らは誰かを探しているかのように、ワドルディたちが走り回っている中気付かれることなく移動していた。
「黒忍、桃忍。俺たちがヤミカゲ様とワイユー殿から指示されたことは覚えてるよな?」
「赤忍、そんなことはテメーに言われなくてもちゃんと覚えてるよ。ヤミカゲ様の言う重要ターゲット『星のカービィ』と『メタナイト卿』の2人から、邪魔な他の奴らを引き離し、  同時にカービィの心の支えとなっているこの国の大臣の娘を人質として捕らえる………それが、俺たちに与えられた役割だったな」
「赤忍〜。引き離す段階では間違えて、煙幕を戦闘用の毒霧入ってる奴を使っちゃダメだからね〜?」
「もちろんわかってるよ、間違えるわけがねーじゃん。毒霧は本格的な戦闘になってから使うに決まってんだろ」
 三人は移動しながらこれからやろうとしていることの最終確認を話し合ってる中、城の中ではあちこちで戦いが始まっているらしく、騒がしい音が聞こえる。
「青忍と白忍の分身体が上手くやってくれてるみたいだな。邪魔な城の兵士たちはあいつら2人の分身体に釘付けになっている」
「星の戦士たちが勝手に戦い始めてなけりゃ良いんだけどね〜」
「地下室にでも逃げられない限り、すぐに見つけられるはずだ。とっとと行くぞ!」
 赤色の忍者服を着た者の声と同時に、彼を含めた3人は移動速度を上げ、標的の星の戦士たちを探し始めた。

「一体なんなんだぞい?この騒ぎは……?」
「城に誰か入って来たんでゲしょうかね〜?」
 爆発音によって無理矢理眠りから覚めさせられてしまったデデデ大王は不機嫌そうに欠伸をしながらベッドから抜け出してきた。
 デデデ大王のところには同じく大きな爆発音で目が覚めてしまったエスカルゴンもやってきた。
 すると2人が起き出してすぐに、勝手にデリバリーシステムが起動し、ディスプレイが出現する。
 ディスプレイに映ったのはグリルではなく、MTSの首領である魔法使いの青年・マルクであった。
「デデデ陛下、ご無沙汰しております。相変わらず元気そうで何よりです」
「おぉーっ!!お前は確か……」
 デデデ大王は久し振りに顔を合わせたマルクに対し大声を上げて彼の名前を言おうとした。しかし…。
「しーっ!陛下、声が大きすぎるでゲスよ…!」
 エスカルゴンは咄嗟にデデデの口を手で塞いだ。
「モガッ!何するぞい、この…!」
「陛下。申し訳御座いませんが、声が大きすぎるのでもう少し控えめにお願いいたします」
「ぬお!?そ、そうかぞい?」
 エスカルゴンとマルクの2人にすぐに注されてしまったデデデ大王。
 本来なら咄嗟に口を塞いできたエスカルゴンを殴っているはずだが、今回はマルクからも注意されたため、思いとどまって大人しくなった。
 それを見たマルクは話を続ける。
「デデデ陛下。私の妹からも先程お聞きになられたかと思われますが、今回そちらの騒ぎを起こしているのは、私共の会社と手を組んだヤミカゲが率いている忍者たちの集団です」
「おー、そう言われれば…。ヤミカゲがカービィを倒すためにやってるってことなのかぞい?」
「はい。そういうことですから、陛下とエスカルゴン様は安心してお休みなさってください」
「あ、いや、しかし…。外がこうも騒がしくては、すぐに寝つけないと思うのでゲスが……」
 マルクは自分たちに簡単に寝ていろと言ってはきたが、外で戦いが始まっているなら寝られるはずがない…とエスカルゴンは心配した。
「わかりました。では……」
 すると、ディスプレイからマルクの姿が一瞬のうちにして消えてしまった。
 デデデ大王とエスカルゴンはわけがわからずディスプレイを見つめていたが、2人のすぐ横に消えたはずのマルクが出現した。
「「!?」」
「今から安心して寝ることの出来る『まじない』をかけて差し上げます」
「「まじない………?」」
 現れたマルクの言う事に、デデデ大王とエスカルゴンは顔を合わせて首を傾げる。
「ではまず陛下から、どうぞ。私の目をしっかりと見てください」
「わ、わかったぞい……」
 デデデ大王はマルクの正面に立ち、彼の両目をしっかりと見つめた。その時……。
 ビカッ!!!
「んがッ……?」
 デデデ大王がマルクと目を合わせた瞬間、マルクの赤色の右目と青色の左目が同時に激しく発光し、デデデ大王は深い眠りに堕ちた。
「へっ、陛下!?」
「グガー…グガー…」
 いきなり倒れ、いびきをかいて眠り出したデデデ大王にエスカルゴンは驚いて駆け寄る。
「大丈夫です。もうデデデ陛下は熟睡なさっています。ベッドの方へは私がお運びしておきますので、ご心配なさらないでください。次は貴方の番ですよ、エスカルゴン様」
「は、はい……」
 マルクはエスカルゴンを上手く話で丸め込むと、彼を今度は自分の前に立たせる。
 デデデ大王の時と同様に、エスカルゴンがマルクと目を合わせた瞬間、マルクのオッドアイが一瞬だけ光って、エスカルゴンを眠りに就かせた。
 2人が完全に熟睡したのを確認したマルクは、それぞれ魔法で運んでベッドに寝かせ、消灯してデリバリーシステムの電源もオフにした。
 マルクが転移魔法でハーフムーンに帰ろうとした直後、グリルとその側近の魔獣であるシミラとウィズの二体、そしてグリルに付き添って絵画の魔女・ドロシアがマルクのところに転移魔法で出現した。
「デデデ陛下とエスカルゴンさんに何をしたの……?」
 現れるなり、グリルはマルクにデデデ陛下たちをどうやって眠らせたのかを訊く。
「お前には秘密で研究していて、体得したある魔法を試してみた」
「ある魔法……?」
「グリル。僕たちの父さんが、母さん以外のマジカルーマ族の皆に極秘で研究していた、マジカルーマ族禁断の術の数々とされる『500の魔法』を覚えているか?」
「う〜ん………あっ!!『黒魔術』とか言われてた奴?」
「そうだ。今その僕たち一族の間では『禁断の術』として封印されていた『黒魔術』と言われていた魔術のうちの1つである、黒魔術第321番『記憶操作の術』を使ったんだ」
「記憶操作の術……?それ…なに?」
「記憶操作の術……。それは名前の通り、術を使った者が術をかけた相手を眠らせ、記憶を自由に改変することが可能な術なんだ。 それで、今僕はデデデ陛下とエスカルゴン様の2人を眠らせると同時に記憶を操作して、数日前に2人が『ウィザード・フォートレスで僕に会った記憶』を消させてもらったんだ」
「それでお兄ちゃんに関する記憶を消したのね?」
「ああ。あの時僕が陛下に会った後、まさかピピ惑星のローナ女王が僕たちの組織の存在をカービィたちにバラすなんて予想外のことだったからな…。 この魔法を習得する前にデデデ陛下が僕自体の存在をバラさなかったこと、僕のことをデデデ陛下に深く追及しなかった星の戦士どもが馬鹿だったことには本当に感謝しているよ。 僕の存在をこれで『今の僕』を知る者はMTSの組織内以外では誰1人としていなくなった。でも、この魔法には少し問題があってね……」
「問題………?」
「うん。この魔法は今僕がデデデ陛下とエスカルゴン様のために使ったけど、一度にその2回までで、それもかけた相手の生誕などと矛盾が出ない程度の断片的な部分にしか使うことが出来ず、 それもこれは魔法を使った者の意思で相手に掛かっている効力を消すことが出来るが、次に使用出来るようになるのはこの魔法による、 一度に使ったうちの2回目の時の効力を最後に解いた時間から数十年は待たなくてはいけないんだ。更にこの魔法は1回使用した後、すぐに2回目に魔法をかける相手を1時間以内に見つけないと、 黒魔術を使った代償として自分が死ぬという非常に厄介なリスクもあってね…。 魔法の使用者は死にたくなければ、すぐに相手を見つけて2回目を使わなきゃいけない…様々な複雑な点と危険性から、この魔法は禁断の術の1つとして数えられてるんだ」
「……ふ〜ん、言っている意味あまりわからないけど、そこまで便利な魔法と言う訳じゃないのね……」
 難しい話が苦手なグリルは分かったような分かっていないような感じだった。
「今僕が魔法をかけたデデデ陛下とエスカルゴン様が起きたその時には、魔法の効力で僕に関する記憶は失っているだろう…。2人の記憶は時期が来たら元に戻す」
「魔法の改良とかは出来なかったの?」
「父さんはこれをもっと便利なものに改良し、一族の者はおろか、宇宙全ての者の記憶を改変して洗脳し、自分の配下にしたかったみたいなんだけどね。 しかし僕は『ある一定の条件を満たせないと自分が死ぬ』というのが気に入らないし、この魔法の厄介な構造は、僕の一族の魔法に関する知識でも補うことは出来なかった…。 今のところこれ以上便利にはならないだろうね。まぁ、僕もこれから使う予定はないしな」
「へぇ〜…。話難しかったけど、もうその魔法は危険だから使わないってことね?」
「…お前の好きなように解釈しろ」
 マルクは自分が使った『記憶操作の術』の説明を、恐らく半分とちょっとぐらいしか聞いてなさそうなグリルに呆れていた。
 マルクが魔法の説明を終えると、横でグリルと一緒に彼の話を聞いていたドロシア、シミラ、ウィズと共にウィザード・フォートレスに転移魔法で帰還した。
 今のマルクの姿をMTSの組織内以外で見ていた数少ない『証人』であったデデデ大王とエスカルゴンのマルクに関する記憶は消されてしまい、 星の戦士たちは自分たちの知らないところでMTSの黒幕に関する手掛かりを1つ失ったのであった………。


 マルクたちが裏で暗躍していることも知らずに、城のあちこちで起こった爆発によって起こされたカービィとメタナイト卿などの星の戦士たち、  それからフームとブンの姉弟はメタナイト卿の部屋の前に集まっていた。
「メタナイト卿、これって……」
「城が何者かの攻撃を受けているらしい。今はソードたちがワドルディたちと協力して応戦しているが、敵の数は多くて手が付けられないようだ。 ジョーとシリカ。そなた達2人は私の部屋に残っているアックスとメイスの2人に守ってもらってくれ。その身体では戦うことは出来ないだろう」
「「………」」
 ジョーとシリカはメタナイト卿の言うとおり、大人しく部屋に入ってアックスとメイスに守ってもらうことにした。
 シリカの方は一応愛用の武器であるクロスガンを背負っているが、やはり怪我をしている身体では満足に戦うことは出来ないことは本人も理解していることだろう。
「カービィ。お前は私と一緒にこの騒ぎを起こしている敵を倒すぞ。フーム、ブン。2人はカービィのサポートを頼む。ブレイドの報告によると、敵は戦いにクナイを使っていたそうだ」
「…ヤミカゲね!」
「いや、情報が不足していて、まだそうと決まったわけではない。だがヤミカゲと関係があるにしてもないにしても、奴らを取り押さえる必要はある」
 忍者が使う道具の名前を聞いて、フームはすぐに脳裏に浮かび上がった人物の名を挙げるが、メタナイト卿は情報が無く正体不明と答えた。
「じゃあ、早速その敵のところへ向かわないと!敵のいる場所は……」
 メタナイト卿が扉を開けてジョーとシリカの2人を自分の部屋の中に入れようとし、フームが敵のいる場所をメタナイト卿に聞こうとした瞬間のことである。
 ヒュウゥゥゥゥゥゥン……
「…え?」
 突然自分たちのところに何かが落ちてくる音が聞こえてきて、最初にフームがその音がした方向を見上げた。
 すると、掌ほどの大きさの球状の物体が3つ落ちて、転がってきた。
 カービィやフーム達がその物体がなんなのかを確認する前に、突然その物体は破裂した。
 ボフッ!!
「わッ!!」
 3つの球状の物体は破裂すると白い煙をモクモクと吹き上げ始め、その場にいた全員の視界を遮った。
「げほッ!!げほッ!!」
 煙を吸い込んでしまった星の戦士たち四人とフームとブンの2人は思わず咳き込む。
「ぐッ…!!」
「うがッ!!」
「うわぁッ!」
 煙が発生して全員が咳き込んでいる隙に、誰かが殴られたような音が聞こえた後、殴られた別々の3人が声を上げた。
「げほッ、げほッ………」
 咳き込んでいたカービィたちであったが、煙は次第に晴れ、再び周囲は元の状態に戻った……かに見えた。
 辺りを見渡したフームが、最初に異変に気付く。
「…!?カービィ、メタナイト卿!ブンと、ジョーとシリカがいないわ!!」
「ぽよッ!?」
「なッ…!?」
 カービィとメタナイト卿は3人がいなかったことに驚き、焦り始める。
「なんなんダスか〜?今の煙……」
「わけわかんねー…」
 メタナイト卿の部屋から、全く事態を把握できていないメイスナイトとアックスナイトの2人が呑気なことを言いながら外に出てきてカービィたちのところへやって来た。
 そしてすぐにその2人にメタナイト卿は指示を出した。
「アックス、メイス!部屋の警備はもういい!お前たち2人はソードたちに加勢しろ!」
「えぇ!?い…いきなりなんの話ダスか……?」
「ジョーとシリカ、ブンの3人がどこかへ連れ去られた!私とカービィとフームはその3人を救い出すためにここを離れる!!行くぞ、カービィ!フーム!」
「ぽよ!」
「ええ!」
「あ…ちょっと…」
 駆け出していったカービィとメタナイト卿、フームを止めようとしたアックスだったが、すでに3人は廊下の奥へと姿を消していた。
 消えてしまったナックルジョー、シリカ、ブンの3人の行方は一体………!?

 一方、こちらは星の戦士たちを探していた赤、黒、桃の忍者たち3人。
 3人はそれぞれ、赤はナックルジョーを、黒はシリカを、桃はブンを片手で背負っていた。
 カービィたちを突然の煙で襲い、ジョーとシリカとブンを連れ去っていったのは彼らだったのだ。
 連れ去られた3人は気を失っており、抵抗する様子はない。
 3人は連れ去った『標的』を片手で背負った状態で、赤が先頭に立ち、その次に黒と桃が続いている形で、跳躍しつつ城内を移動していた。
「奇襲作戦は成功したようじゃん?これも俺の煙玉のおかげだな…。それにしてもなぁ桃忍? お前が背負ってるソレはなんだ?人質にはあっちの女の方を攫ってくるんじゃなかったのか?」
「てへへぇ、うっかり間違えちゃったみたい!」
 赤色の忍者に問われたことに、桃色の忍者はなんも悪びれもせずに答えた。
「ったく、感知能力があるのに間違えるなんてしょうがねぇ奴だな。…まぁ、どっちを人質に取ったところであまり変わりはしねぇだろうがな。 問題は俺たちが相手をすることになるという、俺と黒忍が背負っている2人だ。さっきも確認できたが、こいつらは昼間何かと戦って怪我してるみてぇだな」
「その方が都合がいいだろ、赤忍。俺が背負ってるこの女も、お前が背負っているそのボウズも、『星の戦士』なだけにそれなりに腕が立つとヤミカゲ様から聞く。 弱ってれば俺たちもこいつらを倒せる可能性は高くなる」
「弱ってなくとも俺の毒霧と、お前の毒剣があれば充分じゃん?」
「それもそうだがな、それは俺達2人で行動していた場合の話だ。今回は久々に5人揃って戦うことになるから、戦術は変える」
「んだよ、おい。でもまあ、久し振りに5人で戦うのも悪くはねーかもな。桃忍、お前は戦闘は久々だろう?」
「そうねぇ…。最近までは感知能力を活かした偵察任務が多かったからね……」
「んじゃ、青忍と白忍が待ってる場所へ急ぐぞ。桃忍、場所はしっかりと感知しろよな」
「もちろん!!」
 そうして赤は先頭を桃に譲り、彼女についていくことにする。
 果たして彼らはジョーとシリカ、ブンを何処へ連れ去ろうとしているのか……?

 消えたジョーとシリカ、ブンの行方を探すカービィ、メタナイト卿、フームの3人。
 彼らが向かう先々で、城に侵入した敵とワドルディたちが戦っている場面に遭遇した。
 敵は複数存在していたが、そのどれもが2人組ずつで行動しており、片方は青色の服を、もう片方は白色の服を着ていた。
 3人は戦闘をワドルディたちに任せて先に進んだが、彼らは何者なのかはわかるはずがなかった。
 MTSからの刺客と考えれば早いのだが、そうだとしたらすぐにカービィやメタナイト卿を見つけ次第襲い掛かってくるはずであり、彼らはカービィたち3人を見ても無視してワドルディたちとの戦いを続けた。
 彼らの行動に、メタナイト卿とフームは急ぎながらも頭を悩ませていた。
「メタナイト卿、ワドルディたちと戦ってた彼らの目的はいったい何なのかしら……?ワドルディたちをあそこに引き付けてたようにも見えるんだけど…」
「まだ何も言えないが……少なくとも城を襲ったあの集団はカービィや私の姿を見ても攻撃を仕掛けてこなかったことから、私たちを攻撃することが目的ではないのはわかった。 そなたの言うとおり、あの者たちはもしかすると、ワドルディたちを自分たちのところへ引き付けておくのが目的ともとれる……」
「ハッキリとしたことはわからないけど、彼らが攻撃をしてこないのなら……ブンたちを探すのに集中できるわね」
「うむ。ブンたちがどこへ消えたのかもまだわからないが、集団よりも3人の捜索が優先だな」
 メタナイト卿はそう判断し、カービィとフームも彼に従うことにして、煙が晴れた後に消えたジョーとシリカとブンの捜索を優先することに決め、城の通路を走って部屋を片っ端から探していくことにする。
「(皆……無事でいて…!!」
 不安そうな表情になりながらも、フームは心の中でいなくなった3人の無事を祈るのであった…。 




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