副編集長の鎌田様作・アニメ版星のカービィ 第2期予想小説
第37話
〜ボーラルの兄〜



 〜MTS 惑星スカイハイ支部〜

 マルク・ザ・トリックスターズが大空の惑星・スカイハイに構えている支部の司令室に、首領のマルクと彼の部下である機械昆虫魔獣サイボーグボーラルは待機していた。
 するとそこに、1つの人影が姿を現す。
「来てくれたようだな、マキリタ」
「お久し振りですね、兄さん…」
 マルクにマキリタ、ボーラルに兄さんと呼ばれた人物は、テントウムシのような姿で2頭身の人型の魔獣であった。
「マルク、それにボーラルまで…。俺に一体何の用だ?」
 ボーラルの兄・マキリタは口を開き、要件をマルクに問う。その声質はボーラルのものと似ていたが、少し低い感じだ。
「ボーラル。噂には聞いていたが星の戦士どもに酷くやられたそうだな。なんだ、その醜い姿は…」
「失礼なことを言いますね、兄さん。私はこれで前よりも強い新たな力を手に入れたんですよ。それも兄さん以上のね…!!」
「なんだと…!?ならば今ここでどちらが宇宙最強の魔獣か、決めてやっても良いんだぞ……?」
 ボーラルとマキリタの2人の兄弟仲は悪いようで、その場が今にも戦いが始まりそうな空気と化してしまう。
「いい加減にしろ、お前たち。また兄弟喧嘩か?お前達の兄弟仲が悪いことは知っているが、ここでの喧嘩はよさないか」
 マルクが割って入り、2体の魔獣を制止する。
「マキリタ、他の星を攻撃していたところを呼び出して悪いな。さて本題に入るがマキリタ。次はお前に星の戦士達と戦ってもらおうと思う」
「ほう…?」
「どうやら現在侵攻している惑星626番で下っ端のプランクが1匹行方不明になったそうでな。もし奴が僕達に関する情報を吐いた場合、奴らに知られる前に星の戦士を殺しておいた方が良いかと思って」
「フッ、用心深いお前が今回は手でも抜いたのか?詰めが甘いと見た。何故最初からプランクに口封じをしておかない?」
「僕の方も忙しいんだよ。626番に派遣した宇宙調査隊の下っ端達にはまだそのような細工はしてなかったんだ。まさか侵攻している途中にあのような奴らが出てくるとは…」
「あのような奴らだと?」
「あぁ。銀河戦士団のメンバーであるオーサー卿とノイスラート卿の2人さ。報告によればあいつらが来たことで宇宙調査隊と共に同行した魔獣達は倒され、壊滅状態になったらしい。プランクやマドゥー達の被害は無かったが、銀河戦士団が宇宙船で去ったのと同じ時にプランクが1人消えていたそうだ」
「そうか」
「その報告を聞いた時、僕は勿論使えない部下どもだと怒ったよ。今でも怒ってるけどね。だから撤退命令を出し、同時にお前も呼び出したんだ」
「…前から思っていたことをハッキリ言って良いか?マルク」
「……なに」
 マキリタは息を吸って少しの間の後に突然大声を張り上げた。
「マルク!!貴様らMTS上層部が直接出向いて奴らを徹底的に痛めつけるか、星ごと一瞬で奴らを吹き飛ばせば星の戦士のクズどもなど簡単に始末出来るものを、何故自ら出向いたりしないのだ!!?奴らを早めに始末すればお前の理想とする世界というものはすぐそこまでやってくるだろう!要らぬ星の住民など殺して星も破壊してしまえば良いのに、いつまで洗脳や統治などくだらないことをやっているんだ!?」
 マルクは目を瞑りながらマキリタの意見を聞いた。
 マキリタが話し終えた後で、マルクは目を開きこう返す。
「何度も言っているが、奴らは僕が出向く程の実力じゃない。魔獣を少しずつ送り込むだけで充分なんだよ。僕は魔獣たち程度の強さでも奴らを倒せると信じているのだけどな。それがお前には理解出来ないのか?それからもしお前の意見が正しいとしたら、何故お前やボーラル…それだけじゃない。魔獣達はここにいるんだ?僕達がそうすればお前達なんて最初から必要ないだろう?」
「ぐ…」
「しかし相変わらずお前は馬鹿だな。それじゃあ商売にならないし、金が入ってこないだろう。それに、僕はお前のその『自分が気に入らぬ者はその星ごと徹底的に壊滅させなければ気が済まない上、星の統治などはまともに行わない』という単細胞みたいな考えは好かない」
「なんだと…!?」
「生みの親である僕が欠点を指摘して何が悪いんだ?それに僕の思想はお前よりもボーラルの方が理解しているぞ?」
「貴様……いい加減にしろ!」
「もうお前は黙れ。今まではずっと見過ごしていたが、次逆らったらガメレオアームの奴にお前を始末してもらうぞ。今のお前があいつより強くても、次にあいつが蘇った時はお前では勝てないことはこちらでもう計算済みだ。それでも良いと言うのなら……」
「くッ…もうお前たちの話にはついて行けん!!今から星の戦士を殺しに行き、俺がいかに優れているかを見せてやろう!」
「ほぅ……それは楽しみだ。じゃ、ポップスターの陛下の元へ行ってくれ。今からグリルをこっちの支部に呼ぶ。グリルがお前を転送してくれる筈だ」
「ほほっ…そんなに力まないで、死なない程度に頑張って来てくださいね?兄さん?」
「お前に言われるまでもない」
 マキリタを小馬鹿にしているようにも聞き取れる口調で送り出し彼の弟・ボーラルは司令室を後にした。
「ボーラルの言う通りだ。奴らを甘く見るな」
「お前の話は聞いていない」
「…フッ」
 マキリタの言葉を聞き、マルクは彼の横でハーフムーンにある本部に連絡を入れている。
 見た所マルクにとっては弟のボーラル程利口ではない性格の兄・マキリタとは果たしてどれ程の強さを持つ魔獣なのか…?

 司令室を去ったボーラルは、1人考え事をしていた。
「(私の兄マキリタは私たち兄弟の生みの親であり、我々の組織の首領であるマルク様のことを嫌っている。理由は簡単、マルク様は表面上は穏やかだけど、その本性は策士かつ狡猾であり、幼稚で負けず嫌いでいつも勝つことしか考えていない性格だ。その、勝つことや欲しいものを手に入れることに関しては、自分の手を汚す事でなければどんな手を使ってでも勝ち取ろうとする。しかもすぐに人を見下し、ケチをつける。…だから兄さんはマルク様を嫌っているのだ。私もその気持ちはわからなくはない。と言うよりは、当然だと思う。でも私は、マルク様のことは尊敬しているし、この世に生み出してくれたことに感謝している。マルク様やグリル様は昔、『ある偉大なお方』に選ばれた存在だから、なにをしたって良いんだ。それに、マルク様はただ宇宙を征服する事だけを夢見ている、欲深で愚かしい青年なんかではない。例えば、相手の神経を逆撫でする発言一つにも、ちゃんとした計算があるのだ。兄さんの気持ちは痛いほどよく理解できる。だけど、マルク様やマルク様のやり方が嫌なら組織を抜け、自立して自分のやり方でこれから生きていけば良いだけのこと…。心の底で実はマルク様の命令に忠実で、不要となった魔獣を処分する役目を持っているあの犬…通称『執行人』に処刑されたり、勝手なことをして、マルク様に何かされるのが怖くて組織を抜けることが出来ない兄さんは、ただのクズにして負け犬だ。しかし私は違う。私はマルク様の指示に従い続け、そしていつかは超えてみせる……)」
 心の内で自身の兄のことを馬鹿にし、ニヤッと笑いボーラルは通路を歩く。
 自分もマルクにとっては捨て駒としか見られていないことを知らずに……。


 〜ププビレッジ 草原〜

 一方ププビレッジでは昼前を迎えており、カービィは新ワープスターに乗り、オーサー卿から授かったウィングスターを乗りこなす為練習をするシリカに付き合っていた。
 地上には2人といつも行動を共にしているナックルジョーとフームがおり、フームはジョーから体術を教わりかつてメタナイト卿から学んだ空手に磨きをかけようとしている。
「よしっ…と。だいぶバランスが取れるようになって来たぞ…!」
「ぽよ〜!!」
 シリカはウィングスターに乗って立ち上がり、動いてる状態でバランスを取る為の練習をしており、カービィはその横で新ワープスターに乗ってシリカの応援をしている。
「よし、次はこの状態でも戦えるように…とッ……うわあぁッ!?」
「ぽよ?」
「はぁ…危なかった……」
 バランスを崩しウィングスターの上から落ちそうになったシリカは右手でウィングスターの左の翼に掴まり、何とか落ちずに済んだ。

「フーム、聞いたぞ。前はメタナイトから空手を習ったんだってな」
「あの時、本当は格闘家の貴方に教わりたいところだったんだけど…」
「言っておくが、俺はメタナイトや爺さんみたいに、人に教えるのは得意じゃねぇんだ。それでも良いってのなら…」
「構わないわ!護身術に使えるなら何でも…!」
「よし、じゃあ始めるぞ!」
 ナックルジョーに頼み、フームは彼がやっているトレーニングに付き合う。


「そうか…ヤミカゲは負けたのかぞい…」
「元銀河戦士団の凄腕の忍者だってことで、私達もそれなりに期待はしてたんですけど…」
「結局奴はなんだったんでゲしょうかね〜…」
 デデデ城の玉座の間ではデデデ大王とエスカルゴンが今日もデリバリーシステムを通じグリルと会話をしていた。
「仕方ないぞい。奴でもカービィを倒せなかったらまた新しい魔獣を注文するだけぞい」
「待ってました!今日は特別強い魔獣を用意してるんですよ!」
「おお、乗った!それは良い話ぞい!!」
「あんまり期待はしてないでゲス…」
 グリルの発言に対しノリノリなデデデ大王に対し、エスカルゴンはやや消極的であった。
「今日もお安くしときますよ。5000デデンでどうでしょう?」
「よし、買った!早速その魔獣をこっちへ送るぞい!!」
「かしこまりましたー!」
 グリルの声と同時にデリバリーシステムが光を発し、デデデ大王のところに魔獣がダウンロードされた。
 ダウンロードされた魔獣は、ボーラルの兄・マキリタだ。そのことをグリルが説明する。
「ボーラルのお兄さんの昆虫魔獣マキリタです!」
「お兄さん…って、あのボーラルのかぞい?」
「はい、性格にちょっと難はありますが結構強いですよ!では!」
 適当に済ますとグリルは通信を切断してしまう。
「チッ…難はあるは余計だ…」
 天井の内部へと引っ込むディスプレイを睨みながらマキリタはグリルに対し文句を言う。
「ところで、お前カービィを知ってるかぞい?」
「ああ。そいつを倒すようにグリルからも頼まれている。ボーラルの奴は星の戦士どもに負けたそうだな」
「お前はボーラルとは違うのかぞい?」
「ボーラルも俺の組織もまだまだ甘い。俺は確実に奴らを始末してみせる」
「じゃあ早速…」
 ビュウゥゥゥゥン!!
「のわあぁぁッ!?」
 デデデ大王の話していることを全て聞く前にマキリタは物凄いスピードで城から外へと飛び去った。
 その勢いでひっくり返ってしまったデデデ大王とエスカルゴンは身体を起こす。
「やれやれ…グリルが言ってた性格に難があるってのは本当でゲしたね…」
「彼奴め、わしの話を全部聞かずにどっか行くなんてとんだ不届き者だぞい!」
 デデデ大王はマキリタに対し良い印象は持たなかったようだ。
 飛び去ったマキリタが星の戦士達を探し始める…。


「はぁ…はぁ…貴方っていつもこんなハードなトレーニングしてるの…?確かにかなり身体を鍛えられそうだけど…」
「ふぅ…まあな」
「これだけやって殆ど息切れしないなんてすごいわ…」
 ナックルジョーのトレーニングに付き合ったフームは汗びっしょりになっており、普段からそこそこ鍛えている彼女でもジョーのトレーニングはキツかったようで息は上がっていて、同時にジョーに感心していた。
 ナックルジョーもそこまで息切れはしてないもののやはり少しは疲れるようで、汗をかいている。
「俺1人でやるときはまだたくさんやってるんだけど、お前もいるし今日はここまでにしておくぜ」
「普段はもっとやってるの!?今日はもうこれで充分だわ…」
 フームのことを気遣い今日のトレーニングを中断したナックルジョーだったが、フームは彼の発言に驚くばかりだった。
 話している2人の元に、全身が砂埃塗れになったカービィとシリカが帰ってきた。
「…おい、何があったんだ、お前ら?」
「それが…ウィングスターに乗ってる時にカービィの方を向いて話してたら2人で岩壁に突っ込んじゃって…」
「ぽよ〜…」
「俺も前あったっけな、ワープスターに乗ってるカービィがよそ見してて一緒に岩にぶつかったこと…」
 シリカの話を聞き、ナックルジョーは何とも言えぬ顔をしながらかつてのパワードマッシャーと戦った時のハプニングを思い出していた。
「あっ、そうだ!皆、この近くの林にある綺麗な水が湧き出す泉があるんだけど、そこで水浴びをして汗を流さない?」
「ぽよ〜!」
「おっ、良いぜ!」
「私も賛成だ」
 フームの提案に、カービィ達3人は賛成した。
「ジョーとシリカ、貴方達の分の着替えと水着も一応持って来てるんだけど…」
「準備良いな!」
 フームが鞄からジョーとシリカ、それぞれの分の彼らが普段着ている服と同じ着替えと、水着を取り出し、2人に手渡した。
 ジョーのは男性のスポーツ用の短パンタイプの水着、シリカのは腹部を露出させるタイプの女性のスポーツ用の水着、フームのは腹部を露出させるタイプで下半身がフリルのスカートとなっている水着であり、それぞれ3人に似合ったタイプの水着だった。
 水着を貰ったジョーとシリカは嬉しそうな笑顔を見せる。
「じゃあまずはカービィとジョーから入って来て良いわよ?シリカもそれで良いかしら?」
「良いけど」
「私達は林の入り口で待ってるわね?」
「オッケー。行こうぜ、カービィ?」
「ぽよ!」
「泉は林に入って左の方を進めばあるわ」
「わかった!」
 フームの勧めでまずはカービィとナックルジョーの2人が泉で汗を流すことにし、フームとシリカの2人は林の入り口付近で待機することになった。


 〜ププビレッジ メインストリート〜

 それぞれ修行をしていたカービィ達がいる場所から離れている、ププビレッジのメインストリート。
 ここではいつものようにキャピィ族の村人たちが平和に暮らしている。
 そんな平穏を破るかのように空から何かが飛来した。マキリタである。
 ヒュウゥゥゥン ドズゥゥゥン!!
「「きゃああぁぁぁぁッ!?」」
 地面に勢い良く着地し、マキリタは周囲を確認する。
「(ここにはいないか……)」
「あ…あの…」
 1人の村人が怯えながらもマキリタに話し掛けたが、マキリタは全く見向きもしない。
「ここを破壊するのは奴らを倒してからだな」
 ビュウゥゥゥゥンッ!!
 独り言を呟いた後、マキリタは再び飛び去る。
「今…破壊するって……」
 村人たちはマキリタが去った後も、暫くは怯えて動くことが出来なかった…。


「ぽよ〜…」
「あぁ〜…シャワーじゃなくてたまにはこういう場所で汗を流すのも悪くねぇかな〜…」
 泉の綺麗で冷たい水に浸かり、カービィと汗に濡れた服を脱いで水着に着替えたナックルジョーは汗を流し疲れを癒していた。
 泉の構造は中心部が一番水深が深く、外側になるにつれて浅くなっており、カービィとジョーは外側の方に座って休んでいる。
「こういうところで休むのっていつ以来だったっけな…」
 ナックルジョーは他の星にもこの泉のような場所があったかどうかを思い返そうとしていた。
「あっ、いけね。カービィ、充分休んだか?」
「ぽよ!」
 カービィはジョーの言葉に水をバシャバシャさせながら元気に返事をする。
「本当はもっと浸かっていたいけど、そろそろフームとシリカのところに戻るぞ。ずっと待たせちゃ悪いからな」
「ぽよ」
 泉からカービィとジョーは上がり、ジョーは新しいタンクトップと短パンに着替えて服装を整え、2人は林の入り口へと戻った。

 カービィとジョーの2人は急いでフームとシリカが待つ場所に戻って来た。
「わりぃな。遅くなったか?」
「別に?丁度良かったんじゃない?リラックス出来た?」
「あぁ、水が冷たくて気持ち良かったぜ。有難うな、あの場所のことを教えてくれて」
「お礼言われる程のことじゃないわよ。さ、シリカ。次は私達も泉に行きましょ?」
「うん!」
 カービィとジョーの2人と入れ替わる形でフームとシリカは泉に向かう。

 水着に着替えたフームとシリカは先程のカービィ達と同じように泉に浸かった。
「はぁ〜ッ…生き返る……」
 冷たい水で身体の埃と汗を落としたシリカは泉の気持ち良さを堪能していた。
「シリカ、随分気に入ったみたいね?」
「気に入ったよ、この泉。疲れが取れる…」
「これからも時々ここで疲れた時とかに水浴びしない?」
「うん、ここは本当に良い場所だ。次もまたここに来よう」
「それでさ、突然で悪いけど……シリカってジョーのことをどう思ってるの?」
「なッ…!?」
 フームの言ってた通り本当に突然ナックルジョーの話題を振られてシリカは驚き、顔を赤くする。
 顔が赤くなったのは驚いただけでなく、別の理由もあったが。
「あっ、ごめん。驚かせちゃったかしら?」
「あ、うん、大丈夫。そのっ、ジョーのことは…信頼出来る大切な仲間だと思ってる。だけど…」
「だけど?」
「なんと言うか…最近は……こっちに来る前にジョーと…彼と一緒にいることが多かったんだけど…ジョーと一緒にいると時々…なんだか胸が…胸が苦しくなることもあって……」
 顔を赤くしながらも、途切れ途切れに言葉を続けるシリカ。
「シリカ、それは貴方がきっとジョーに…」
「えッ…?」
「ご、ごめん!今は2人きりだけど、カービィとジョーを待たせちゃ悪いものね?」
「う…うん。なら…次の機会でも良いよ。じゃあ…私も同じようなこと聞き返すけど…フームは一緒にいることが多いメタナイト卿のことをどう思ってる?」
「私はメタナイト卿のことは…一緒にいると安心出来ると言うか…落ち着くというか…頼り甲斐のあるところが…その……」
 最初は普通に話していたが、話している内にフームもシリカ同様に徐々に顔を赤らめさせていった。
「…?」
「あッ!?や、やっぱりこの話はまた今度にするわ!話を変えましょ?」
「あ…わかった…」
「それでね…」
 最初は互いがいつも一緒にいる男性であるメタナイト卿とナックルジョーについての話で始まり、その後も2人が時間を忘れそうになる程ガールズトークに夢中になっていると、泉の近くで何やら物音がした。
 ザザッ…
「…誰ッ!?カービィ?」
「…!!」
 フームは物音のした方向に顔を向け、シリカはフームと同じく物音がした方向を向きつつ警戒し、泉のすぐ横の陸地に荷物と一緒に置いてある愛用のクロスガンに手を伸ばす。
 物音がした方向の茂みから姿を現したのは、MTSに所属する上級ランク魔獣・ガメレオアームだった。
「奇遇だな、女神達よ…」
「あんた!?またスケベなことしに来たの!?」
「フーム、下がってて。奴は私が倒す!!」
「待て待て。シリカ、お前はそんな無防備でセクシーな水着姿でこの俺と戦うというのか?」
「うッ…そうだった…!」
 シリカは自分の今の姿のことを忘れており、ガメレオアームに指摘されて焦り出した。
「早まるな。俺は戦いに来た訳じゃないし、元からお前達には危害を加えたりはしない。俺も水浴びをしに来たんだ」
「…はぁ?」
 ガメレオアームの言ってることが理解出来ず、フームは冷たい目で彼を見て冷たい返事をするだけだった。
「さぁ見るんだ!この俺の華麗なる泳ぎを!」
「あ…ちょっと!中心は…」
 ザバアアァァンッ!
 フームの言う事を聞こうともせず、2人に自分のカッコ良いところを見せたいガメレオアームは泉の中心に飛び込み、泳ぎ出そうとするが…。
「ぐへぁッ!はッ…あが!ごふぉッ…へぶぁ…ゴボゴボゴボゴボゴボ…」
 泉は中心に行くほど深い構造をしているため、足が底につかなかったガメレオアームはその場で溺れ始めた。
「だから注意しようとしたのに…。それに貴方…泳げなかったのね……」
 水中でジタバタし、泉の中心でバシャバシャと水飛沫を上げながら暴れるガメレオアームを見て、フームとシリカは完全に呆れていた。
「ぶふぁッ…だから…ごぼッ……オフッ………お前達が…ごふぁ…溺れ…溺れていても…ぶふッ!救出…出来るように…泳ぎの……ゴボゴボ…特訓を……!!」
「…ちょっと彼には悪いけど、なんかされる前に着替えちゃわない?」
「私もその方が良いと思ってた」
「おい!…ゴボゴボ!…待て……女神……ゴフッ…たち……ゴボゴボ…」
 溺れかけているガメレオアームを他所にフームとシリカは彼が見てないことを確認し、水着から持って来ていた新しい服に着替え始める。
 フームはいつも着ている服と同じ模様の服を、シリカもいつも着ているオレンジ色のボディスーツの予備をそれぞれ着て、シリカはプロテクター等の装備を整えている。
 着替え終わった2人は揃ってガメレオアームの方を見た。
「…敵とは言え、このまま見捨てるのもなんか気が引けるし……」
「それなら…!」
 フームの提案を聞いてシリカはクロスガンを持ち、鉤縄を溺れているガメレオアームに向かって放つ。
「それに掴まって!」
 フームに言われた通り鉤縄にガメレオアームは掴まり、掴まったことを確認したシリカが引き上げようとするが……。
 ピシュン!
「!?」
 フームとシリカの2人の横に、突然星の戦士を探し回っていた魔獣・マキリタが現れた。
「そこの銀色の髪の女……星の戦士の1人だな?」
「魔獣か…!?」
 ガメレオアームに向かって伸ばしていた筈の鉤縄をシリカは引っ込め、マキリタと対峙する。
「どうやら今は1人のようだな…。まずは貴様から消えてもらおう」
「ぐッ…!」
「シリカ!林の入り口にいるカービィ達を呼んで来るわ!それまで悪いけど持ち堪えてて!」
「うん、わかった!」
「馬鹿め…俺に勝てると思っているのか?」
 フームがカービィ達を呼びに行こうとした時、溺れていたガメレオアームは泉から自力で這い上がっていた。
「ぶへぇッ!!し…死ぬかと思った……」
「ん?貴様は…!!」
 マキリタはガメレオアームの姿を見て驚くような反応を見せる。
「おっ、次はお前があいつの命令を受けてここに来たのか?」
「その通りだ」
「そうか。だったら…」
 マキリタを見たガメレオアームはあることを思い付き、フーム達に話し掛けてきた。
「2人の女神よ、今回は俺も力を貸そう」
「えッ!?ど、どういうこと…?」
 ガメレオアームの突然の『力を貸す』発言にフームは驚く。
「こいつは俺が個人的に嫌いな奴でな、前々から命令が無くともお仕置きしてやろうと考えてたんだが…まさかこんなところでそれが叶うことになろうとは…」
「貴様はいつまでもMTSの言いなりなのか?その考えを修正してやろう!!」
「修正されるのはお前の方だ。今ここで俺から逃げられても、次に上層部に逆らったりとかしたら俺がお前の事を処刑するぞ?あの目覚まし時計のようにな……!」
「目覚まし時計?…あぁ、あのチクタクのことか。調子に乗ってられるのも今の内だ、組織の犬が…!」
 互いに嫌い合っているガメレオアームとマキリタの睨み合いと言葉の応酬が続いている。
「シリカ。今はああやって嫌い合ってるように見えるけど、彼らは同じ組織所属…。油断はしないで」
「わかってる。私もガメレオアームのことは警戒している」
「じゃあ私は今度こそ2人を呼んで来るわね!」
 小声で話し合いをしてシリカが頷いたのを確認したフームはカービィとナックルジョーを呼びに林の入り口へ走り出した。
「行くぞ」
「まさか、お前と共に戦うことになるなんてな」
「そっちが勝手に私に味方してきたんだろ。言っておくが、私はお前のことは信用していないからな」
「キツい性格だな。だがそこがお前の魅力だと俺は思っている。それで俺の心を盗むつもりか?」
「……そんなことは誰も言ってない!」
 戦闘中でもナンパを止めないガメレオアームにシリカはウンザリしきっている。
「くだらん話はそれまでだ!」
「!!」
 腕の発電器官のような部分からマキリタはシリカとガメレオアームに向かって放電。
 電撃は2人目掛けて飛んでいくが、シリカが左に、ガメレオアームが右に避けたことで的を外れた。
 電撃を避け、シリカはクロスガンからナイフを伸ばし、マキリタに向かって斬りかかる。
「たあぁぁぁぁッ!」
「ぐわッ!」
 ブシュウゥゥゥッ!!
「危ない!!」
 ビュンビュンビュンビュン ズガアアァァァァンッ!!
「ぐおあああッ!」
 マキリタが斬り付けられた腕の傷口から体液を噴出させた瞬間にガメレオアームは口からペイントボムを4つ吐き出し、マキリタを吹っ飛ばしてシリカから離れさせた。
「奴が体液を垂らした場所をよく見ろ」
「…?」
 ガメレオアームの言葉と攻撃の意味に頭を傾げるシリカ。
 そう言われて自分の足元の草を見ると、マキリタの体液が垂れた草は強酸をかけられたかのように溶け出していた。
「これは……!?」
「奴が出す体液は強酸性だ。触れたものは表面が溶けて焼け爛れる」
「なんだって…!?」
「わざと傷付いて逆に傷を負わせようとしたが…そうもいかなかったな」
 ペイントボムの爆風で距離を離されたマキリタは最初から体液でダメージを与えるつもりだったらしく、シリカに攻撃されたのも意図的に仕組んでいたことだったようで、シリカはガメレオアームに助けられた形になった。
「死ねッ!!」
 ビィィィィィッ!!
 マキリタは人差し指の先からかつてのボーラルが使ってたものと同じビームを発射。
「ぐわあああぁ!」
「ガメレオアーム!!」
 素早いビームに反応することが出来ず、ガメレオアームは左腕部を撃ち抜かれてしまい、大きく仰け反って辺りには緑色の血液が飛び散った。
「はああッ!!」
「ぐえッ!」
 ドズウウゥゥゥゥンッ!
 腹に蹴りを入れられたガメレオアームは吹っ飛ばされ、大木に激突。
 シリカがクロスガンを構えてマシンガンを撃つ形態に変えて使おうとした時、青白い波動がマキリタを直撃。
「どわッ!!!」
「!!カービィ、ジョー…!」
 シリカが波動が飛んで来た方向を見ると、カービィとナックルジョー、そしてその2人を呼びに行っていたフームがいた。
 波動はナックルジョーが使ったパワーショットだったのだ。
 ナックルジョーはシリカが心配なようで、まず最初に彼女に駆け寄る。
「シリカ、怪我はないか?」
「さっき危なかったけど、ガメレオアームが助けてくれたんだ」
「えっ?あいつが…?」
「説明は後よ。今はあそこにいる魔獣を倒さないと…!」
 戸惑うナックルジョーに、フームは説明を後回しにしてマキリタの方を指差した。
「もう2人来たか…。ボーラルを破ったというお前達の力を見せてもらいたいところだ…」
「どういうことだ…?」
 マキリタの発言にナックルジョーは首を傾げる。
「折角だ、星の戦士のガキども……殺す前に教えておいてやろう。俺は…ボーラルの兄だ!」
「「!?」」
 カービィ達はマキリタの発言を聞き戦慄する。
 目の前にいる魔獣はかつてナックルジョーやシリカの2人が戦闘不能になる程まで追い詰められ、カービィとメタナイト卿が力を合わせたことでようやく倒せた魔獣・ボーラルの兄だというのだ。
 カービィ達はボーラルと戦った時と比べ、MTSが送り込んで来る様々な魔獣との戦闘を経験し、戦闘が無い空いた時間には修行や稽古をしていたため実力は確実に上がっている。
 それでもかつて苦戦させられた相手の兄と言われた時の衝撃は大きかった。
「そして俺の名はマキリタ。まず言っておくが、俺は弟ほど甘くは無い。覚悟しておけ」
「…来るわよ!」
「…フッ」
 マキリタが構え、フームがカービィ達に注意をした後、ニイッと笑いマキリタは星の戦士達に襲い掛かってきた。
「はああぁぁぁッ!!」
 低空飛行をしながら腕の発電器官から電撃を発生させ、マキリタはカービィ達に突進。
「きぃぃああぁぁッ!!」
 バチバチバチバチバチッ!!
 3人の星の戦士は放電攻撃を素早く避ける。
 電撃はカービィの背後にあった木に命中し、木は切断され前に倒れる。
「フーム!何だかこの場所は狭いところに閉じ込められてるみたいで戦いづらいぜ…」
「あっ、そういえば確かに…」
 ナックルジョーが言った通り、泉があるこの林は樹木に囲まれており、避けるにも狭くてカービィ達は非常に戦いづらい環境にあった。
 勿論カービィ達だけでなく、マキリタにもそれは言えたことではあったが。
「この林の外に出て、草原まであの魔獣を誘き出しましょ!」
「ぽよ!」
「よし!」
「わかった!」
 カービィ達は走り出し、林の出口を目指す。
「ふん!外に出たところで同じことだ!」
 マキリタは真っ直ぐと追いかけて来る。そして林を抜け草原に出て来たカービィ達3人の戦士とマキリタ。
 後からフームも追いついて来た。
「(そういえばガメレオアーム…いつの間にかいないわね…)」
 草原に出た直後、マキリタの指先からのビームで撃ち抜かれ吹っ飛ばされてからガメレオアームが姿を見せていないことにフームは気付く。
「(また姿を隠していていきなりカービィ達が襲われたらまずいわ…。彼らが戦ってる途中も、私が周囲を警戒してなきゃ)」
 カービィ達がガメレオアームからの奇襲を受けないように周囲の様子に気を配るフーム。
 しかし、警戒するフームの様子をガメレオアームは姿を消し陰から覗いていた。
「俺を警戒してるようだが、今回に限っては俺は手出しはしない……。マキリタは本当に嫌いな奴なんでね」
 小声でそう呟き、ガメレオアームは戦いの場から完全に気配を消した。
「気を付けて、カービィ、ジョー。あいつは近くで攻撃すると酸を含んだ液体で反撃してくる」
「シリカ。それは遠くから攻撃しなきゃダメってことだな?」
「…うん」
「よし、わかった!奴には近づくなよ、カービィ!」
「ぽよッ!」
 シリカはガメレオアームから教えられたことをカービィとナックルジョーに教え、3人は態勢を整える。
「そうはさせんぞ!!」
 マキリタは3人の戦士に向かって再び腕の発電器官から放電。
「カービィ、あの電気を吸い込んで!」
 ズオオォォォォッ!!
 フームの指示でマキリタの電撃を吸い込み、カービィはスパークカービィに変身した。
「それが噂のコピー能力か…。だがそれでこの俺を倒すことが出来るのか?でゃぁああッ!!」
 地面を蹴り、低空飛行でカービィ達に接近するマキリタ。
「させるか、バルカンジャブ!!」
「食らえ!!」
 ナックルジョーの左右の拳からはエネルギー弾が、シリカのクロスガンからはミサイルがマキリタ目掛けて放たれる。
「ぐぅッ!?」
 バルカンジャブとミサイルによって起きた爆煙はマキリタを包み込み、煙幕のようになって彼の視界を遮った。
「くそっ、こんなもの…!」
 マキリタは煙に怯むが真っ直ぐにカービィ達のところに突っ込んでいく。
 だが彼を待っていたのは…。
「スパークレーザー!」
 バリバリバリバリバリッ!!
「ぐおわあああぁッ!?」
 カービィに攻撃をしようとしたマキリタは、そのカービィが撃ち出した強力な雷の光線の直撃を正面から受け、吹っ飛ばされる。
 吹っ飛ばされたマキリタは地面に数回ぶつかった後、転がって岩に直撃。
「くそッ…嘗めるな!!」
 マキリタは起き上がりつつ右の手の平から紫色のエネルギー波を繰り出す。
「パワーショット!!」
 飛んで来たエネルギー波にナックルジョーは右手からのパワーショットで対抗、相殺した。
「(何故俺の攻撃は奴らに通じない…?俺は確かにボーラルよりも力は上な筈だ……)」
 自分が思ってた以上の強さを見せる星の戦士達を見て、マキリタは焦り出す。
 まさか自分はここで負けるのか?そんな筈はない。
 奴らは自分よりも弱い弟のボーラルに苦戦する程度の相手だった。
 そんな相手に負ける筈は…。
「…まだだ!」
 すぐさまマキリタは瞬間移動をする。
「なにッ!?」
 突然の瞬間移動を前にナックルジョーは思わず声を上げる。
「ククク…こっちだ」
「なッ…?」
 カービィ達3人の後ろを取ったマキリタはナックルジョーとシリカの2人の身体に、左右の腕の発電器官を直接押し当て、放電した。
「「ぐあああぁぁッ!!」」
「カービィ!2人を助けて!!」
「ぽよッ!」
 フームの声でカービィは跳躍し、マキリタの真上に行く。
 そしてそのまま下に向かって雷を落とす。
「イナズマ落とし!」
「ぐはああぁッ!」
 上を取られたことに気付かなかったマキリタはカービィが落とした青白い雷を浴び、ナックルジョーとシリカを解放した。
「2人とも平気?」
「あぁ、大丈夫だ」
 マキリタの電撃で痺れさせられたジョーとシリカをフームは駆け寄って心配するが、2人は電気攻撃からすぐに解放されたため、気にする程ではない軽傷で済んでいた。
「おのれ…こうなったら…!」
 マキリタは上空へ飛び、巨大なエネルギー球を作り出す。
「貴様らはこれでおしまいだ!」
 作り出したエネルギー球をカービィ達に向かって落とすマキリタ。
 しかしカービィ達3人は冷静だった。
「シリカ、頼む!」
「わかった!」
 シリカはクロスガンの火炎放射の形態と、出力を上げた光線銃を同時に発射。
 エネルギー球はシリカの攻撃で速度が低下する。
 その横でカービィは全身に、ナックルジョーは右手にエネルギーを溜めていた。
「よし、もう良いぞ!」
 ジョーの指示でシリカは武器による攻撃をやめる。
 シリカが武器を下げた直後、カービィとナックルジョーがそれぞれの技を同時に放つ。
「スパーク波動弾!」
「メガパワーショット!」
 カービィの高圧の電気の波動弾と、ナックルジョーの太く青白い波動はマキリタの放ったエネルギー球にぶつかった。
「なにいッ!?」
 2人の攻撃でエネルギー球はマキリタ自身のところに押し返される。
 押し返されたエネルギー球はマキリタを飲み込み大爆発。
 ズガガガガガガガガガ!!
「ぐぎゃああぁぁぁぁぁッ!!」
 カービィのスパーク波動弾、ナックルジョーのメガパワーショット、そして自身のエネルギー球のダメージを纏めて食らったマキリタは身体がボロボロとなり、空中から地上へと叩き落とされ、爆発した。
「やったわね!」
「ぽよっ、ぽよ!」
 喜ぶフームに、笑顔で駆け寄るカービィ。
 その後にナックルジョーとシリカも続く。
「あのボーラルの兄貴を名乗ってた魔獣…立場や雰囲気から強力な魔獣じゃねぇかと思ったが、そこまで強い訳じゃなかったな」
「いえ、強い敵を倒せるようになったのもカービィや貴方達がMTSとの戦いを通して強くなったからじゃないかしら?つまりは…貴方達が成長してるってこと」
 マキリタが強くなかった、というナックルジョーだが、それに対しフームはカービィ達の方が強くなったのだと返した。
「だと嬉しいな。私ももっと強くならないと」
「奴らに備えて、日々トレーニングを欠かさずやっていきてぇな」
「でもジョー、シリカ。無理だけはしないようにね?」
「あぁ、わかってる」
「勿論!」
「ぽよ!」
 ボーラルの兄を名乗る魔獣・マキリタをこれまで現れた上級ランク魔獣達と比べると難なく倒すことが出来て、ホッとしたカービィ達。
 修行や稽古を重ねて強くなろう、と話した後帰路に着いたのであった。


 〜ウィザード・フォートレス 応接間〜

 ウィザード・フォートレスの応接間では、マルクが椅子に座り何かを待っているような様子だった。
 そして、彼が待っていた『何か』は部屋に帰ってくる。
 マルクの正面の空間が歪み、その中からところどころ金色の鉱石のような皮膚と、顔の横に2本の角を持った2足歩行の怪獣型の生物が出現した。
 その怪物に続き、空間の歪みからは身体がボロボロで瀕死の重傷を負ったマキリタが放り出される。
「グガハッ……マ…マルク…」
「爆発に紛れて死にそうなマキリタをちゃんと救出してくれたようだな。ご苦労だった、ギガゴルド。あとは休んでいて良いぞ」
「グルルルル…」
 ギガゴルドとマルクから呼ばれた黄金の怪獣型の生物は空間を歪ませ、その中へと消えて行った。
 星の戦士達の予想以上の強さに敗退したマキリタは、精神も肉体も限界であった。
 そんなマキリタをからかいに来たのか、マルクの横にはマキリタ自身の弟であるボーラルも姿を現す。
「おやおや…随分と派手にやられてしまったようですね、兄さん…。情けないですよ…」
「くそぉ……この…俺がぁ……」
「あれだけ自信を持ってたのに負けるとは…奴らを甘く見過ぎていたかマキリタ。お前みたいな馬鹿で無能な奴は組織には不要だ…」
 マルクは倒れているマキリタを見下ろし、殺すような素振りを見せた。
「(クソが……こんな……!!)」
 魔法で矢を出現させるマルク。
 その先端を向けられ、マキリタはマルクによって死ぬ…かに見えたが。
「…フッ」
 マキリタを汚い物を見るような目で見下ろしていたマルクだったが、急に表情をそれから大きく変えてニヤッと笑う。
 同時に魔法の矢も消滅させる。
「…良いことを思い付いた。お前にはまだ利用価値があると判断した」
「なん……だと…!?」
 疑問を抱くマキリタに応じ、マルクはそう思った訳を説明する。
「お前に最後のチャンスを与えてやる。今日から数日後、お前は僕から与えられた新しい力を使って、ボーラルと一緒に、その時点でもし他の魔獣達がカービィ達を始末出来ていなかったら、カービィ達と戦え。カービィ達が既に死んでいたら相手はオーサー卿達元銀河戦士団のメンバーだな。そこでカービィ達かオーサー卿達のどちらかを確実に殺して来い。もしそれでダメだったらお前は……わかってるな?」
「ぐぐ……」
 条件や身体の傷の関係もあり、マキリタは出撃前のようにマルクに向かって意見を言える立場ではなかった。
 マキリタは黙って頷き、マルクから言い渡された条件を承諾する。
「それで良い。今のお前は僕に対して食って掛かれるような状況じゃないからな、マキリタ…。おい、ボーラル」
「なんでしょう?」
 横にいたボーラルにマルクは声を掛ける。
「マキリタを前にお前が改造手術を受けた手術室に連れて行け」
「畏まりました。…行きますよ、兄さん」
 マルクからの頼みを聞き、ボーラルは重傷を負ってるマキリタをサイコキネシスで空中に持ち上げ、テレポート能力で部屋から離脱した。
 部屋に残ったマルクは1人考え事をする。
「(もう不要になった奴ら兄弟を、星の戦士達と共倒れさせる目的で計画を立てた訳だが、マキリタが改造されて新しい力を手に入れても、星の戦士達に対抗出来るかどうかは不安はある……。だがまあ良い。マキリタの改造手術が終わるまでは、陛下が注文した魔獣等で奴らの相手をして様子見だな)」
 自分が考えたこれからの計画を再確認したマルクは、転移魔法で別の部屋へ移動。
 星の戦士達によりあっさりと敗れてしまった上級ランクの魔獣マキリタは、新たな魔獣・ギガゴルドの能力により生きていた。
 しかし、マルクが考える『共倒れ』とは一体どういうことなのであろうか……。




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