〜ププビレッジ デデデ城〜 惑星ポップスターのププビレッジでは、カービィたちと戦い、一度撤退させるまでに追い込んだ強力な魔獣・チクタクがやってきてから1日経っていた。 デデデはチクタクから聞いた『宇宙最強の魔獣』の存在を確かめるべく、デリバリーシステムを起動し、グリルと話しているところだった。 『宇宙最強の魔獣』の存在の事をほのめかしたチクタク自身もデデデの隣にいる。 「ハ〜イ、陛下。今日はどのようなご用件で?」 「おい、グリル。昨日ここにやってきたこのチクタクがカービィを楽に倒せる強さを持つという『宇宙最強の魔獣』がMTSにはいると言ったが、それは本当なのかぞい?」 「『宇宙最強の魔獣』?ええ、いますよ。チクタク、貴方名前とかを陛下に教えなかったの?」 「いえ、お楽しみという事で言わないほうがいいかと思いまして」 「まあそんなことはどうでもいいわ。で、陛下はその『宇宙最強の魔獣』をそちらに送ってほしいですか?」 「送ってほしいに決まっているぞい!」 「フフ、言われなくても前々から計画していたことですよ。今日この日に『宇宙最強の魔獣』をポップスターに送り出す事は。それじゃあ、行きまーす!!」 グリルの掛け声と共にデリバリーシステムが光りだした。 光った直後にデデデ城に送られてきたのは、小柄で小悪魔のような姿をした少し頼りなさそうな魔獣であった。 「彼こそが、今のところMTSナンバー1の魔獣、ボーラルです。関係ないけど、チクタクは一応ナンバー2なんですよ〜」 グリルが軽く紹介をするとボーラル自身も改めて自己紹介をする。 「はじめましてデデデ陛下。わたくしこそが『宇宙最強の魔獣』、または『宇宙一の魔獣』と呼ばれているボーラルです…」 「よろしくぞい。でも、お前ちょっと何と言うか…見た目が弱そうぞい」 「今のはさすがに少しムッときましたね。『人は見かけによらない』って言葉をご存知ありませんか?」 「う〜ん、よく知らないぞい…」 「知らないなら別によろしいです。ところで、わたくしの目的である『星のカービィ』は今どちらへ?」 「たぶん外に出ているぞい」 「わかりました。ではグリル様、私は軽く運動をしてきますので」 「絶対に星の戦士を倒してよね、ボーラル!期待しているわよ!」 「ボーラル、カービィを倒しに行ってくるぞい!」 デデデとチクタク、ディスプレイに映っているグリルに見送られてボーラルは空を飛んで城の外に出て行った。 それを見届けたグリルはディスプレイから姿を消した。 「ぐふふふ、ついにカービィをやっつけることができるぞい…!」 狙われていることに気づかないカービィは原っぱでフーム、護衛としてついているシリカと気分転換に散歩をしていた。 カービィとシリカの二人はチクタクとの戦いで大きな音を聞いた所為で昨日はずっと頭痛がしていたようだが、一晩寝て回復したらしい。 そこで今は散歩をしている。ブンや村の子供たちは別のところへ遊びに行っているようだ。 そんな3人のすぐ近くの上空には先ほどデデデ城から飛んできたボーラルがおり、3人を観察していた。 「(あれがマルク様やグリル様の言っている『星のカービィ』…。すぐ横には最重要ターゲットではないが標的の一つである星の戦士の一人の『シリカ』…。フフ、では行くとしますか)」 ボーラルは空中から地上へ急降下し、カービィたち3人の前に降り立った。 「誰!?」 「ぽよぉ!?」 突然目の前に現れたものにカービィとフームは驚き、シリカは身構えた。 「貴方たちが『星の戦士』たちですね…?」 初対面でいきなり『星の戦士』という単語を発したその人物に3人は警戒心を強め、最初にフームが口を開いた。 「貴方誰なの?もしかして…MTSの魔獣?」 「そのとおり。私の名前はボーラル。『宇宙最強の魔獣』と周りからは言われています…」 「『宇宙最強の魔獣』?」 「そうです。わたくしは星の戦士たち、特に『星のカービィ』を倒せと命じられてここまでやってきました。本当のことを話しますと、何故『宇宙最強』であるこの私がわざわざ出向く事になったのかが疑問であまり乗り気ではないのですが…」 「宇宙最強だろうと、魔獣であるなら戦うだけだ。カービィ、フーム、下がってて」 シリカは現在変身していないカービィと非戦闘員であるフームを後ろに下げた。 「あまり無理はしないでよ?」 フームは心配してシリカに声をかけたが、彼女は黙っていた。 「ほっほっほ。まさかこの私に戦いを挑もうとする愚か者がいたとは、まさに身の程知らずもはなはだしいというやつですね…。まあいいでしょう。こちらも仕事で戦いをしなければならないので始めるとしましょうか。確か貴方は我がMTS社の上層部からは大した人じゃないと評価されていた星の戦士・シリカさんですね?」 「なんだと…!?」 「どれ、ちょっと拝見させていただきましょうか…」 「貴様…嘗めるな!!」 見下されているような発言をされたシリカは怒り、ボーラルに向かって改造銃からの火炎放射を放つ。 ボーラルはそれを避け、シリカの腹部に蹴りを入れる。 「ぶっ!!」 そのキックは以前シリカが受けたグリルのキックほどではなかったが、すごいパワーを持っており、シリカを吹っ飛ばした。 「ほっほっほ。まだ始まったばかりなのに倒れては困りますねぇ」 「くっ…このっ!」 ボーラルはシリカのことを嘲笑いながら吹っ飛ばされた彼女の近くにやってくる。 それに対するシリカは近くにやって来たボーラルをナイフで斬りつけようとする。 「ふんっ、はあっ! ナイフの攻撃を受け止めたボーラルはシリカの身体を殴りつける。 シリカは攻撃に屈せず反撃をするが、素早くて小柄なボーラルにはまったく攻撃を当てる事ができない。 「貴方は随分と動きに無駄が多いようですね…」 「くっ…!!」 ボーラルは余裕でシリカのナイフによる攻撃をかわし、挑発する。 「さて、次は本格的にこちらの番と行きましょうかね」 ボーラルはそう言うとシリカの目の前から一瞬で姿を消す。 「な!?ど、どこだ?うわあっ!」 シリカはあたりを探そうとした瞬間、突然後ろからボーラルに攻撃された。 「はぁっ!ていっ!」 後ろから攻撃されて怯んだシリカにボーラルは連続で攻撃を加えていく。 「ふっ!!」 「うあああっ!!」 再びシリカの腹部を蹴り飛ばして距離を離すボーラル。 距離が離れた事により、飛び道具を豊富に持っているシリカのほうが有利な状況になったと思われた。 だが、シリカは身体がすでに傷や痣だらけで、あまり余裕と体力は残されておらず、そのような事を考える事すらできなかった。 それに対してボーラルは一回も攻撃を受けていないためか、余裕の態度を見せ付けている。 「距離が離れて有利になったとでもお考えですか?いや、貴方にはそんなことを考えている余裕などありませんか…くっくっく」 「はぁ…はぁ…はぁ…」 「ふんっ!」 「うっ!」 ボーラルは人差し指からシリカに向かって光線を撃った。光線はシリカの右肩に命中した。 普通であれば彼女の装着しているプロテクターによってこのビームは弾かれるはずであるが、シリカの右肩からは血が出始め、腕まで流れてきた。 どうやらボーラルの放ったビームには防具を貫通する効果があったらしい。 「くぅっ…」 「さすがにもう飽きてきましたね…消えておしまいなさい」 ボーラルはフラフラになって反撃する事のできないシリカに近づき、腹部に連続でパンチやキックを浴びせる。 「ぐっ!! あっ!! うわあああっ!!」 ドサッ… ボーラルの猛攻撃を受け、シリカは倒れた。戦いはシリカの完敗であった。 「シリカ、しっかり!」 「ぽよ〜!」 「あ…う…うぅ……」 倒れて動けないシリカの元へカービィとフームが駆け寄った。 「くっくっく。まったく情けない人です…」 「………」 嫌味を言い続けるボーラルに対し、フームは怒りが込み上げてきた。 「さあ次は貴方の番ですよ、『星のカービィ』…」 「カービィ、こうなったらやるしかないわね!あの魔獣を見返してやりなさい!」 「ぽよ!!」 「でもここにはその『星のカービィ』が変身して戦うために必要な道具が何も無いじゃないですか、どうすると言うのです?」 「はっ?そういえば…」 カービィとフームはボーラルに対しての怒りで周囲の状況を思わず忘れてしまい、指摘されてハッとした。 「ほっほっほ。では今すぐ貴方を…」 ボーラルがそう言いかけた途端、彼の上空から光弾の雨が降り注いだ。 「な…何が起こったというのですか?」 さすがのボーラルも奇襲作戦には驚かされていた。 「お前もMTSの魔獣なんだろ?」 「何ですか、あなたは?消し去りますよ」 「俺は魔獣ハンターのナックルジョー。お前を倒しにきたんだよ」 やってきたのはナックルジョーだった。 「ほう、どうも星の戦士には死にたがりやな人が多いみたいですね…」 「死ぬかどうかはやってみないとわからないぞ…!」 「さて…どうやって殺して欲しいですか?」 「くっ…バルカンジャブ!!」 ナックルジョーは挑発したボーラルにバルカンジャブを放つ。 ボーラルはかわして空へ飛び上がる。 ナックルジョーもそれを追って身体を発光させ、空へ飛び上がった。 ナックルジョーとボーラルの空中戦が展開された。 ジョーはバルカンジャブやスピンキックといった技を連発し、ボーラルを攻撃しようとする。 ボーラルは瞬間移動でそれを避け、ナックルジョーの後ろにとって殴り飛ばした。 「うわっ!」 ナックルジョーは吹っ飛ばされたものの体勢を立て直し、再び技の連発をする。 また同じようにボーラルは瞬間移動でかわしてナックルジョーの背後をとる。 「(来たな…!)」 ジョーはボーラルが背後をとるのを狙っていたらしく、素早く対応してボーラルの身体を掴んだ。 「なに!?」 「片手投げ!!」 「どわあっ!」 ジョーは片手投げでボーラルを地面に叩き落した。 ボーラルは掴まれた瞬間から何をされているのかわからず、なす術がなかった。 「スマッシュパンチ!」 「ぐわああ!!」 地面に叩き落されたボーラルはジョーのスマッシュパンチによる攻撃を受けた。 ジョーは叩き落されたボーラルのところへ飛んでくる。 ボーラルは地面にめり込んでいる状態だったが、すぐに起き上がった。 「ふん、少しはやるようじゃないですか…。先ほどの人とは違って理性的に動く事はできるんですねぇ…」 「へっ、お前はその余裕な態度はいつまで保てるんだ?」 「魔獣ハンターのナックルジョーと言いましたね?確か貴方はHN社の最強魔獣マッシャーを倒した経歴があるそうじゃないですか…」 「ああ、よく知っているな」 「先ほど貴方はいなかったので参考までに教えておきますが、現在の『宇宙最強の魔獣』はマッシャーではなくこの私だということを…」 「へぇ〜、それなら倒しがいがあるな」 「マッシャーなんかよりもずっと強いこの私が倒せるとでも?」 「自信はあるさ。『魔獣ハンター』の名にかけてお前を倒してやるよ。それにさっきも言っただろ?『やってみなきゃわからない』ってさ」 「フッ…全宇宙一である私の恐ろしさを見せてあげましょう」 ボーラルは再び空中へ飛び立ち、ナックルジョーもそれを追った。 ボーラルは指先から光線を撃ってジョーを攻撃しようとする。 ジョーはそれをかわし、スピンキックで反撃に出る。 しばらくそのような一進一退の攻防が続いた。 「はっ!」 ボーラルは急に近づいてジョーにキックを仕掛ける。 「ぐっ!!」 しばらく遠距離戦が続いていたのと、急に近づいてきたのとでジョーは対応できず、キックを浴びて吹っ飛ばされた。 先ほどのシリカと戦ったとき(あの時は地上であったが)と同じようにボーラルは怯んだジョーに瞬間移動で近づいて連続で攻撃を浴びせる。 「うわっ!」 ジョーはボーラルのキックで地面に落とされた。 そのジョーが地面に墜落した際に地面が砕けて大きな破片が飛び散った。 ボーラルは地上に降り立つとその破片を念力のようなもので持ち上げ、倒れているジョーにぶつけた。 「うわあっ!」 ジョーは地面の破片をぶつけられてカービィやフーム、倒れているシリカがいる場所まで吹っ飛ばされてきた。 「ナックルジョー!」 「ぽよ〜!」 「ぐ…うぅ…」 「おや、さっきまでの自信はどうしたのでしょうか?」 ボーラルは相変わらず余裕と自信に満ちた態度を見せている。 「さて、次は今度こそ『星のカービィ』。貴方の番ですよ。…と言いたい所ですが、星の戦士が今戦った二人程度の実力しかないのでしたらあまり楽しめませんね…」 「どういう意味なのよ、それ?」 「簡単な事です。次はわたくしたちのもう一つの最重要ターゲット『メタナイト卿』も連れてきて彼と『星のカービィ』の二人で私と戦って欲しいということです。ですから今日のところはチャンスを与えますよ」 「貴方、いきなり何を言い出すというの?」 「チッ、俺たちも随分嘗められたものだよな…」 傷だらけのジョーが悔しそうに呟いた。 「嘗めているのはあなた方のほうでしょう?MTS上層部を除けば『宇宙最強』、『宇宙一』であるこのわたくしに逆らったのですからね。さっさと逃げれば無駄に怪我をすることが無かったものを…」 「くっ…」 「ということで、明日この場所でお待ちしておりますよ。『星のカービィ』と『メタナイト卿』の二人を同時に倒せれば一石二鳥ですからね…」 「(それが狙いだったのね…)」 そう心の中では思いつつもフームはカービィと共に怪我をしたジョーとシリカの二人を背負って仕方なくボーラルの言うとおりその場から撤退した。 怪我をしたジョーとシリカの二人を連れてカービィたちはデデデ城のメタナイト卿の部屋にやって来た。 「『宇宙最強』を名乗る魔獣ボーラル…」 「ええ…」 「で、その魔獣は明日、私に用があると言ったのだな?」 「でもあの魔獣は物凄い自信の持ち主で、『貴方とカービィを二人まとめて倒す』みたいなことを言い出したのよ…」 「仕方が無い。その魔獣の挑戦を受けよう。今、ジョーとシリカの二人は怪我をして動く事ができない状態…。今のところ戦えるのは私とソードたち、カービィしかいない。それに私が直接出向かない限りその魔獣は気が済まないだろう」 「本当に明日戦うの?」 「そうさせてもらう」 フームはチクタク以上の圧倒的な実力を見せ付けた宇宙最強の魔獣・ボーラルと戦う事を決めたメタナイト卿を心配していた…。 〜ウィザード・フォートレス シアタールーム〜 ここはウィザード・フォートレスのシアタールーム。 首領のマルクは実は秘密でププビレッジにパラマターを送っており、ボーラルの戦いぶりを見ていたのだ。 「(まったく…明日にチャンスを与えるとかどこまで甘い奴なんだボーラルは…。それに今回の出撃はあまり乗り気ではなかっただと?まあいい。明日には奴のおかげでカービィたちは倒せると信じよう。もし倒せなかったらプロジェクトGで作り出した魔獣を奴らにぶつけるしか…。まあすでに魔獣を作り出すのに必要な『新型ウィルス魔獣』は完成直前だ。どちらにしろ星の戦士たちはこの数日間で地獄に堕としてやるよ…ふっふっふ)」 マルクは内心そんなことを考えながらシアタールームの画面を消し、部屋から出て行った。 しかし、彼の言う『新型ウィルス魔獣』とは何の事であろうか…? |