副編集長の鎌田様作・アニメ版星のカービィ 第2期予想小説
第20話・その1
〜邪悪なる居住者〜


 〜ウィザード・フォートレス 研究室〜

 ここウィザード・フォートレスの研究室には、しばらく篭り続けてデデデから手に入れたエスケル魔獣黄帝液のサンプルや、HN社の風邪ウィルス魔獣のデータを基に新型ウィルス魔獣の試作品を完成させ、これによって『ゴッド類』の魔獣第1号を生み出してププビレッジに送り込んだMTSの首領・マルクがいた。
 近くには手伝っているプランクとマドゥーが慌しそうにして働いている。
「次はウィルス魔獣の能力を調整をする為にあそこにある『生命力増強剤』を持って来い」
「はいっ」
 プランクとマドゥー達はマルクに頼まれるとすぐに頼まれた薬品を持ってきた。  そして数時間後…。
「成分を調整してできたのがこれか…。コンピューターで分析したデータによると主な効力は『投与した生物の異形化』、『死者を蘇らせる』、『肉体進化』、『超細胞再生』などか…。なるほど、これであれば完璧な破壊神が生まれるはずだ…。だがこれだけでは制御の難しさなどはわからないか…」
「あの〜、マルク様?」
「なんだ?」
 研究の助手を担当していたプランク達の中の一人がパソコンを見ていたマルクに話しかけた。
「以前のゴッドは実験に使った魔獣が本来あまり強くない奴だったので、もっと強い魔獣に注入するのは如何でしょうか?」
「フッ、そんなことはもうすでに考えているよ。実験に使う素体はもう用意してある。そして今度は死者を甦らせる実験をしようと思う。お前、そこのスイッチを押せ」
 マルクはそう言ってプランクに命令し、壁にあったスイッチを押させた。すると…。
 ブオォォォォォォォン!
 大きな音と共に研究室の床が開き、中から棺桶のようなものが出現した。
 どうやらこの中には『あるもの』を冷凍保存しているらしく、棺桶の周りからは冷気が噴き出してきた。
「うわっ、寒っ…」
 プランクやマドゥー達は冷気に触れて小声で呟いた。
 マルクは出現した棺桶を念動力で開けた。出現したものは…。
「実験に使うのはこいつだ」
「この男…どこかで見たことあるような……」
 棺桶から出てきたのは眠っている金髪で仮面をつけた2頭身の男だった。
 プランクは棺桶から出てきた人物に見覚えがあったのか、首を傾げた。
 マルクはその人物についてその場にいたプランクやマドゥー達全員に説明をする。
「見覚えがあるのも当然だろう。こいつはジェクラ。魔獣ハンターナックルジョーの父親で、メタナイト卿の戦友でもある。今ジェクラは死んでいる状態だが、新型ウィルス魔獣の調整した効力をこいつで試そうと思うんだ」
「どのような経緯で彼を回収したのですか?」
「簡単だ。メタナイト卿や彼の部下であった銀河戦士団員はナイトメアによって洗脳されたジェクラを殺したあのとき、彼の遺体を燃やさず土葬した。その遺体を僕がこっそり持ち帰ってHN社で保存をし、そしてこちらへ持ってきたわけだ。そもそもそのジェクラを洗脳すると言う案をナイトメアに授けたのもこの僕だったりするわけなのだが」
「…よくわかりました。ところで、マルク様はゴッド類の魔獣を『本部で暴走した魔獣や侵入者を迎撃する為の魔獣』としてこのウィザード・フォートレスに配備すると言いましたよね?」
「ああ、そうだが」
「もし今回生み出したゴッド類の魔獣が制御の難しい存在であったらどうするつもりなのですか?」
「ならば納得いくまで実験をすればいい。ドロシアにも今回生み出したゴッド類の魔獣2号をこのウィザード・フォートレスに置くと言ったが、思ったよりも実験が長引く可能性もあるな…。だが元々僕がそんな考えを持ったのは、暴走した魔獣を抑える事のできないお前達が力不足だったからというのを忘れるなよ」
「も、申し訳ございません…」
「今はそんな事よりも、実験室にまずはジェクラを連れて行こう。早めに作業を済ませないと死体が腐るからな。僕は先にすぐ隣の実験室に向かおう」
 マルクは転移魔法でジェクラの遺体と共にプランクやマドゥー達よりも先に実験室に向かった。

 〜ウィザード・フォートレス 実験室〜

 実験室の真ん中にはすでにジェクラの遺体が置かれており、プランクやマドゥー達がそれを囲んでいた。
 マルクは実験室のガラス越しからマイクで指示を出している。
 実験室は完全なる密室である。
「お前達、新型ウィルス魔獣をジェクラに注入しろ」
 マルクの指示通り一体の研究の手伝いをしているマドゥーが新型ウィルス魔獣が入ったアンプルがセットされた注射器の針をジェクラの遺体に刺した。
 ジェクラの遺体に新型ウィルス魔獣が注入されていく。
「用意した新型ウィルス魔獣は全て投与しました」
「よし、ならばお前達はその場で待て」
 マドゥーの報告を聞いたマルクは次の指示を与えた。
 マルクに言われたとおり、プランクとマドゥー達はジェクラの遺体を囲んでいる状態でその場に待機した。
 …投与してから2分ほどが経過したそのとき、ジェクラの遺体に変化が起き始めた。
「ウ…ウグォォ……」
「!!!!」
「これが…死者を蘇らせる力…」
 先ほどまで完全に死亡している状態であり、全く動かなかったジェクラの遺体が唸り声を出し、今にも動こうとしていたのだ。
 これには周りのプランクやマドゥー達は驚きを隠せなかった。
 マルクは驚くと言うよりはむしろ喜んでいた。
 そしてジェクラの遺体は更なる変化を起こす。
 メキメキメキッ!!ギロリッ
 ジェクラの遺体はみるみる右腕が怪物のようなものに変貌していき、その怪物のようになった腕には巨大な眼球のようなものが形成された。
「や、やりましたね!マルク様!実験は成功です!!」
 一匹のプランクがガラス越しにいるマルクに喜びながら言った。
 だが、ガラス越しにいる当のマルクは不敵な笑みを浮かべていた。
「ま…マルク様……?」
 そのプランクはマルクの様子が変であることに気付いたが、時すでに遅し。
「グアアアアオッ!!」
 ザシュッ!!
「ぎゃああああああっ!」
 新型ウィルス魔獣の影響で復活し、怪物となったジェクラの遺体は肥大・異形化した右腕で周囲、そしてガラス越しのマルクの目の前にいたプランクやマドゥー達を引き裂いて皆殺しにしてしまった。
「(この調子じゃあこの魔獣は制御が難しいと見たな…。今回も失敗か…?)」
 ガラス越しにいるマルクは周囲のプランクやマドゥー達を皆殺しにしてしまった蘇ったジェクラをみて少しガッカリした顔をしながら考え事をしていた。
「(いや、待て。確かコンピューターには『肉体進化』とあったがそれがどんなものかを見てみたくなったな…。なるほど、ああすればいいのか)」
 マルクは何かをひらめき、転移魔法でガラス越しから蘇ったジェクラのいる実験室にワープした。
「グガアオオオオッ!」
 蘇ったジェクラは右腕を振りかぶって目の前にやって来たマルクに襲い掛かってきた。
「ハッ!!」
 マルクは掛け声と共に謎の閃光を蘇ってゴッド類の魔獣と化したジェクラに浴びせた。
 閃光が収まると、ジェクラの姿は完全に消えていた。
「(フフフ…これからがお楽しみだ。さて、司令室へ向かうとするか)」
 マルクは再び転移魔法で姿を消してしまった。
 実験室に残されたのは、先ほどまでマルクの研究や実験を手伝っていたプランクやマドゥー達の死骸だけであった…。

 〜ウィザード・フォートレス 司令室〜

 実験室から転移魔法で消えたマルクは司令室にやって来た。
 司令室には彼の妹グリルと、彼女に付き従っている絵画から蘇った魔女のドロシア・ソーサレスがいた。
「いくらなんでもひどすぎるよ、お兄ちゃん。プランクやマドゥー達をあんな風に殺しちゃうなんて〜…」
「また卑劣な事を…」
 どうやらグリルとドロシアの二人は先ほどの実験室での出来事の一部始終を監視カメラを通して司令室のモニターで見ていたらしい。
「何を言っているんだ?二人とも。あれぐらい普通だろう」
「だって!プランクやマドゥーが可哀想じゃない!」
「あんな雑用係はいくらでも生み出せる存在だ、多少減っても問題はない」
「でも可哀想じゃん!」
「グリル、お前はそういうところがまだ甘いんだ」
「う〜ん…」
 グリルはまたもマルクに冷たさが足りない事を指摘されて黙り込んでしまった。
「ドロシアのほうも僕は別にグリルにまだ手をかけたわけではないし、許せるはずだろう?」
 マルクに話しかけられたドロシアはマルクと目を合わせないようにしてこう言った。
「…悪魔め………」
「僕は悪魔でもなんでもいいよ。悪魔という言葉は別にどうでもいいけど、お前が僕の事をそう言うのなら僕もまたそれなりのことをこれからも続けるだろう。それに、僕は自分の為ならば星の戦士以外でも、そして誰であろうと殺せるんだから」
「!!!!!!」
 マルクのその発言を聞き、見た感じではわかりづらいがドロシアの顔色が変わった。
 そして、そのドロシアの様子の変化に気付いたマルクは発言を訂正する。
「!…ああ、もちろんお前達二人は殺さない…いや、殺せないけどね」
「…ならいいのだがな」
 発言を訂正したマルクを見てドロシアは普段の態度に戻った。
「……それよりもお兄ちゃん、あの魔獣はどこに消しちゃったの?」
 少しの間黙っていたグリルは本題の魔獣化したジェクラの事についてマルクに聞いた。
「そのことなんだが奴…ジェクラはポップスターのカービィ達の元へ飛ばした」
「えぇえ!!?こ、今度は何を考えてるの?」
「僕は今度は新たに新型ウィルス魔獣に追加した効力『魔獣の肉体進化』を見たくてね…。その為に向こうへ送ったんだ」
「それなら他の魔獣相手に見たほうがいいじゃん」
「奴は解析によると『超細胞再生能力』というものを持っている上に昨日カービィ達と戦わせたゴッド類の魔獣も耐久力が高かったから、星の戦士と戦わせるほうが面白いかと思ってね。それに奴は僕に襲い掛かってきたから制御が難しいんだよ。だからここで試すのは危険とも考えてのこともある」
「じゃあこっちに連れて帰るとなったらどうするの?元々あの魔獣はこっちの本部に置いておく予定だったんでしょ?」
「そのときはグリル、お前にそのことを任せよう」
「え?ど…どうして?」
 突然任された重大なことにグリルは驚き、マルクに聞く。
「なぜなら奴に絶対勝てそうな戦闘能力を持っているのは僕以外ではお前とドロシアぐらいしかいないからだ。お前はもうすでに一部の星の戦士とは顔を合わせているのだろう?ならば丁度いいじゃないか」
「(前と言っている事が逆のような気がするんだけど…)」
 グリルは心の中でマルクにツッコミを入れながらも返事をした。
「うん!じゃあそのときは私に任せて!だって私、お兄ちゃんの為ならなんでもするって決めたからね!」
「ありがとう、それでこそお前だ。じゃあグリルもドロシアも、この司令室でジェクラと星の戦士達の様子を見よう。パラマターの映像はすでに司令室にも届くように改良してあるし、パラマター自体も事故で壊れないように頑丈にしたからね」
 そう言ってマルクは司令室にある一番大きなモニターに映っているこのウィザード・フォートレスに設置されている監視カメラが見ている映像からポップスターにいるパラマターが見ている映像へと切り替えた。


 〜ププビレッジ デデデ城内部の廊下〜

 惑星ポップスターのププビレッジはカービィ達が魔獣の群れ『ラガルトンシリーズ』や、異形の姿をした魔獣…つまりはマルクが実験で生み出したゴッド類の魔獣第1号を撃破してすでに時間は夜となっており、今日はカービィが城に泊まっている。
 当然MTSが恐ろしい実験をしている事を知るはずも無いカービィ達星の戦士やフーム達大臣一家、デデデ大王とエスカルゴンと言った現在デデデ城にいる面々は、それぞれの部屋のベッドでぐっすりと眠っていた。
 彼らが寝ているときも城のあちこちで警備をしているワドルディ兵士達の中には、一部スヤスヤと可愛い寝顔で呑気に居眠りをしている者や、警備をサボってチェスで遊んで休憩している者達もいる。
 今日も皆が安心して寝ていられる静かな夜である……と、思われた。
「!!!」
 だが、一部のワドルディ達がこちらに向かってくる左右非対称の姿をした、見るからに怪しげな人影を見つけた。
 姿は廊下が薄暗い為、ちゃんとした姿が判らない。
「!!!」
 ピッピッ
 ワドルディ達は危険を感じたらしく、相談(ただし、ワドルディ達特有の言語である為、他人から見たらただお互いに向かい合って腕を振っているようにしか見えない)をし、その場にいた数体の中から一体がどこか別の場所に走っていった。
 残ったワドルディ達は隠れてその怪しい人影の様子を見ている。
「グオオオアアアアッ!!」
 ドゴオォォン!!
 その怪しい存在は吠え、隣にあった壁に向かって右腕を突き出し、それを破壊した。
 様子を見ていたワドルディ達は驚いて飛び上がった。
 そしてすぐに先ほど別の場所に向かった一体のワドルディと彼によって連れてこられたワドルドゥ隊長、それから以前MTSに洗脳されたシリカに対して出動した、ワドルディ兵士達の中でも戦闘能力に最も優れており、銃器を装備したワドルディ達で構成される精鋭特殊部隊『WADDLEDEE ENEMY COUNTERMEASURE SERVICE(通称:W.E.C.S)』と多数の一般ワドルディ兵士達が到着し、すぐに陣形を作った。
「あれが…侵入者?」
「…(コクリ)」
 ワドルドゥ隊長の聞いたことに先ほどから様子を見ていたワドルディ達が揃って頷いた。
 そして並んだワドルディ達の最前列にいるW.E.C.Sの隊員のワドルディが、手に持っていたマシンガンとフラッシュライト(懐中電灯)を得体の知れない侵入者に向けた。
 得体の知れない侵入者の正体はつい数分前にマルクが送り込んだ、新型ウィルス魔獣によって蘇り、異形の魔獣となったジェクラであった。
 だが、そもそもワドルドゥ隊長やワドルディ兵士達はジェクラの顔知らないので、異形の化け物ということぐらいしかわからなかった。
「W.E.C.Sはマシンガンで怪物を集中砲火、一般兵達は槍を投げてW.E.C.Sを援護しろ!」
 ワドルドゥ隊長はワドルディ兵士達に的確な指示を与え、ジェクラを攻撃させた。
 バババババババッ!!
 ヒュン、ヒュン、ヒュン!!

 マシンガンの銃声と槍の投げる音が廊下に響く。
「グオォォォォォッ!!」
 しかし、マシンガンや槍による攻撃は魔獣に効果が薄いらしく、怯む様子を見せない。
 ジェクラの姿をした魔獣は攻撃に物ともせず、攻撃してくるワドルディ達の方向に向かってくる。
 ワドルディ達も後ろに下がりつつ攻撃を続ける。
「グルルルッ」
 ジェクラは歩くのを一旦止めると右の掌をワドルディ達に向けてきた。
 するとジェクラの肥大化した右掌からちょうどワドルディと同じくらいの大きさがあるカブトガニに似た小動物を複数生み出した。
 グジュルグジュルッ、ボトッ
 生み出されたカブトガニのような小動物はワドルディ達の顔に貼りついて攻撃をしてきた。
 ワドルディ達はそれを振り払い、引き離した。
 グジュグジュ…
 振り払われた小動物は簡単に死んでしまったようで、液体状になって消えてしまった。
「ぐぬぬ…攻撃を続行しろ、怯むなぁ!」
 ワドルドゥ隊長とワドルディ達は化け物となったジェクラと彼から生み出された小動物を気味が悪いと思いつつもワドルドゥ隊長は引き続き指示を与え、ワドルディ達はそれに従って攻撃を続けた。
「一体何が起きてるの?」
「まったく、夜中に何考えてやがるんだ…」
 そんな中、戦いの音で目を覚ましてしまったカービィとナックルジョー、フーム、ブンの3人がワドルドゥ隊長とワドルディ達がジェクラと戦っている現場にやってきた。
「なにかしら…あの魔獣?半分だけ化け物みたいだけど…」
「!!??」
 フームとカービィはただ不気味な姿をした魔獣にしか見えなかったが、一人、フラッシュライトによって照らされた魔獣…ジェクラの姿を見て驚愕している者がいた。
 ナックルジョーである。
「お…親父……?」
「えぇ!?」
「ぽよ?」
 カービィとフームはナックルジョーの父親の顔を知らなかった為、ナックルジョーの発言に驚いていた。
「た…確かなの?」
「あの姿は右腕以外は確かに親父のものだ…。だけど親父が本物かどうかは…」
「でも貴方のパパはすでに…」
「そのはずだが……それならどうしてここに…」
 ナックルジョーはすでに死んだはずの父親が今現実…自分の目の前に怪物のようになりながらもまだ面影を残した状態でいること、そして生きていたなら何故あのような姿をしているのかが信じられなかった。
「あの魔獣はMTSが差し向けたそなたの父の形をした魔獣という可能性もある」
「!?」
「メタナイト卿?」
 ナックルジョーが今目の前にいる父は何者であるのか悩んでいるとき、いつの間に横に来ていたメタナイト卿が言った。
「騒がしいから様子を見に来てみたが…あれはこちらを動揺させて攻撃しにくくし、あっさり殺す為にMTSが仕組んだ罠だろう。だが、一つ気になる事が…」
「え?」
「あの魔獣が身につけている服は私が覚えている限り当時の彼のものそのものだ…。まさか本当にあの魔獣は…」
「くっ、奴ら…卑怯なマネを……!」
 ナックルジョーはメタナイト卿が推測した一説を聞き、卑怯なことをするMTSに対して更なる怒りが込み上げてきた。
「グレネード投下!」
 メタナイト卿とナックルジョーが話している間にもワドルドゥ隊長率いるW.E.C.S精鋭特殊部隊とその他のワドルディ一般兵達はジェクラと戦い続けており、ワドルドゥ隊長の指示で一人のW.E.C.S隊員のワドルディ兵士がグレネード(手榴弾)をジェクラの姿をした魔獣に向かって投げつけた。
 ヒュン、ドカァン!
「グアオオオオオッ」
 手榴弾の直撃を浴びたジェクラの姿をした魔獣はマシンガンなどでは怯まなかったがそれでようやく怯み、転倒した。
「今だ!あの怪物に集中砲火!」
 ワドルドゥ隊長の声でW.E.C.S隊員のワドルディ達のマシンガンが一斉に火を吹いた。
 バババババババババババババッ!!
「ングウォォォォォォン!!」
 ジェクラはマシンガンの一斉攻撃を受けると床に倒れた。
 しかし、次の瞬間すぐにジェクラは起き上がった。
「な!?」
 カービィ達やワドルドゥ隊長とワドルディ達等はその強靭さに驚かされた。
「ウグオォォォォォォッ!!グッ、グアアッ…」
 グギュグギュグギュッ!!
 するとジェクラの姿をした魔獣は右腕だけでなく全体的に身体が肥大化し、肥大化したことによって上半身の衣服が破けて吹き飛んでしまい、右腕も更に巨大化した。
 ガチャガチャッ!
 ワドルディ達は肥大化したジェクラの姿をした魔獣に対してマシンガンの銃口を向けた。
「待て」
 すると、ワドルドゥ隊長やワドルディ達の前にやってきた人物がいた。ナックルジョーである。
「あの魔獣は俺が一人で倒す」
「しかし…」
「無茶よナックルジョー!あの魔獣の強さは…」
 ワドルドゥ隊長とフームがジョーにジェクラの姿をした魔獣と一人で戦うのをやめるように言う。
「あの魔獣が本物の親父であるかどうかはわからねぇけど、あいつはなんだか俺の手であの世へ逝かせてやらなきゃいけねぇ気がするんだ。…なんと言うか、すまねえけどとにかく皆は手を出さないでくれ」
 その言葉を発したジョーの目は真剣そのものであった。
 それを了解したカービィ達は後ろに下がり、魔獣とジョーの戦いを見守ることにした。
 ジェクラの姿をした魔獣は一人で戦いを挑んできたジョーを見つけると右腕を武器に襲い掛かってきた。
 シュン!
「つおおっ!」
「グウン!?」
 ドッコーン!!
 ジョーはジェクラの攻撃をジャンプで避けると空中からジェクラの姿をした魔獣の頭部目掛けて足から気弾を撃つ技・スピンキックを放った。
 だが、ジョーの渾身の攻撃はジェクラには通じていなかった。
「くっ、スマッシュパンチ!」
 続けてジョーはスマッシュパンチを放つが、ジェクラの姿をした魔獣は全く怯まずにジョーのほうへ向かってくる。
「グアアアオ!!」
「しまった!!」
 ブウン、ガッ!
 ジョーに攻撃後の一瞬の隙ができた瞬間、ジェクラの姿をした魔獣は右腕を横に振ってジョーを跳ね飛ばした。
「うあああっ!」
 ドカーン!
 ナックルジョーはジェクラの姿をした魔獣の右腕の一撃を受け、吹っ飛ばされて壁に激突してしまった。
「ジョー!!!」
 心配しているフームが悲鳴のような声でジョーの名前を叫ぶ。
「ぐっ…」
 瓦礫の中からジョーはふらつきながらも起き上がった。
「(そうか!これなら…)」
 そのとき、何かをジョーはひらめいたらしく、すぐさま行動に移した。
 ジェクラの姿をした魔獣は右腕を再びジョーに向かって振り下ろす。
 ジョーはそれを横っ飛びで避け、ジェクラの姿をした魔獣の死角からライジンブレイクを放つ。
 だが、これもジェクラの姿をした魔獣は難なく耐えてしまう。
「へっ、だったらこれならどうだ!」
 ジョーはジェクラの攻撃をまた避けて、ジェクラの姿をした魔獣の頭上の天井に向かって気弾を撃ち始めた。
「どこを狙っているの?」
「うむ、彼の狙いは恐らく瓦礫であの魔獣を潰す事だろう。考えたものだな」
 ジョーの考えがわからないフームにメタナイト卿が説明をする。
 そして、ジョーの気弾で破壊された天井は瓦礫となってジェクラの姿をした魔獣に降り注いだ。
「グウゥゥ?グアアアアアオオオオ…」
 さすがのジェクラも降ってきた瓦礫には対応する事ができず、なすすべなく下敷きにされてしまった。
「はぁ…はぁ…。や…やったか?」
「ナックルジョー!」
「ぽよ!」
 ジェクラの姿をした魔獣が下敷きとなっている瓦礫の前に立ち、少し疲れた様子を見せているナックルジョーのところにカービィ、メタナイト卿、フーム、ワドルドゥ隊長が駆け寄ってきた。
「傷は大丈夫?」
 フームは怪我をしていたジョーを心配していた。
「ああ、これぐらい大した事ねぇよ。あと悪いけどお前達。先にそれぞれの部屋に戻ってくれ。今は俺一人にさせてくれないか?」
「どうして?」
 ジョーの予想外の発言にフームは首を傾げた。
「今はなんだかこの魔獣の近くに居てやりたいんだ。それからこの魔獣は親父本人かどうかはわからねぇ…だけど、俺はこんなマネをしたMTSが許せねぇんだ」
「…わかったわ」
ジョーの言葉を聞いたその場にいたもの達全員はジョーの元から離れ、カービィ、メタナイト卿、フームはそれぞれ寝ていた部屋に戻り、ワドルドゥ隊長やワドルディ兵士達はそれぞれの持ち場へ戻っていった。

先ほどの戦いの場からナックルジョー以外の者が帰ってから数分後…。
ナックルジョーはまだ一人で瓦礫の前におり、考え事をしていた。
「(この魔獣を差し向けてきた奴らはどうしてこんなことを…。やはり俺達を動揺させる為か……?)」
 ナックルジョーにはMTSの狙いがなんなのかを考えていたのだ。
「(とにかく親父の姿を使ったというのが許せねぇ…!)」
 また怒りがこみ上げてきて、ジョーは歯軋りをする。
 だが、そのとき。
 ヌボッ!ガラガラッ
「!?」
 瓦礫の下から突然謎の腕が飛び出した。
「なっ…まさか…」
 ナックルジョーは嫌な予感がして仕方が無かった。そしてその予感は的中する事となる。
「ウッグゥ…ウオォォォォォォ!!!」
 瓦礫の下から下敷きにして倒したはずのジェクラの姿をした魔獣が復活したのだ。
 先ほどのダメージの所為で顔は崩れており、ジェクラの面影は殆ど無い。
 これでは『ジェクラの姿をした魔獣』というよりは『異形の魔獣』と言ったほうが良い状態だ。
「ウオォォォォォォッ!」
 異形の魔獣は雄叫びをあげるとダメージを受けてボロボロになったジェクラの顔が完全に砕け散り、中から新たな頭が出現し、下半身には長い尻尾が生え、腕の爪がより鋭いものになった。
「グルルル…」
 異形の魔獣は先ほどの戦いでジョーが穴を開けた天井を見るとそれに向かって跳躍した。
 異形の魔獣はその穴から城の一つ上のフロアにあがり、そのまま素早い動きで姿を消した。
「(くっ…。まずい、このままじゃあの魔獣が他の奴らを襲っちまうかもしれねぇ…。だが気付かれないうちに奴を…。
すまねぇ皆!奴は俺一人でケリをつけてぇんだ!)」
 ジョーは一人で意地を張ると魔獣が去っていった方向に飛び、後を追った。

 だが、この出来事の一部始終を一人のワドルディ兵士が物陰で見ていた。
 ワドルディ兵士はすぐさまワドルドゥ隊長に報告に向かった。
「な、なにっ!?」
 そして報告を聞いたワドルドゥ隊長はすぐさま現在自分の近くにいたワドルディ兵士達に指示をする。
「ワドルディ達よ、今この場にいない他の者達にも呼びかけてあの怪物をそれぞれ手分けして探しだせ!怪物を見つけ次第攻撃を仕掛けて殲滅せよ!」
 ワドルドゥ隊長の指示を聞いたワドルディ達は行動に移し、その場から解散した。

「えぇ!?ジョーのお父さんの姿をした魔獣?」
 先ほどの騒ぎで現場にはいなかったもののフーム達大臣一家と共に眠っていたシリカやブンも目が覚めて起きており、フームの話を聞いて驚いていた。
「でも姉ちゃん、ナックルジョーのパパはすでに…」
「そのはずなんだけど…」
「不思議だな…。それよりも、今ジョーは何をしてるの?」
 姿が見当たらないジョーの事についてシリカがフームに聞いた。
「その魔獣のところにいると思うんだけど…。なんだか『一人にさせてほしい』って言っていたわ」
 そんな話をしているときだった。
 ドタドタドタドタッ!
「姉ちゃん、外が騒がしいぞ……?」
「そうね…なんだか嫌な予感がするわ。様子を見に行きましょ!」
「ぽよ!」
 部屋にいたカービィ、フーム、ブン、シリカはすぐに外に出て様子を見に向かった。

 カービィ達が部屋の外に出ると、多数のワドルディ達が城内を走り回っていた。
「こ…これは一体?」
 状況を把握する事のできない4人のところにメタナイト卿とソードナイト等7人の騎士達がやってきた。
「メタナイト卿、一体何が起きているのですか?」
 あきらかに異常な現在の状況についてシリカがメタナイト卿に聞いた。
「うむ。ワドルドゥ隊長から聞いたのだが、どうやら先ほどナックルジョーが倒した彼の父に似た魔獣が蘇って移動し、城の各所で暴れまわっているらしい」
「それで、ジョーと魔獣はどこに?」
「それが…ナックルジョーも魔獣も行方がわからないようだ」
「メタナイト卿、私がジョーを探してきます!」
 シリカはメタナイト卿の話を聞くと一人で駆け出していった。
「待て、シリカ!一人では危険だ!」
 メタナイト卿はシリカに忠告するが、ジョーの事を誰よりも心配し、いなくなったことに焦っているシリカの耳には届いていなかったらしく、彼女が止まることはなかった。
 そしてシリカはそのまま走り去っていってしまった。
「くっ、また彼女の『悪い癖』が出たか…」
 メタナイト卿の言うシリカの『悪い癖』とは言うまでもなく『後先考えずに行動すること』である。
「しょうがない。カービィ、フーム、ブンは私と共に行動しよう。ソード達は自分達で手分けして魔獣とナックルジョー、シリカを探してくれ」
「はっ!」
「マックス・ラジャー」
 ソードナイトを初めとする騎士達は全員でシリカが走っていった方向へ向かった。
「カービィ、フーム、ブン。そなた達は私からは離れないようにしてくれ。私達はソード達とは別の場所でナックルジョーを探そう。そしてできるだけ魔獣に見つからないよう、静かに」
「わかったわ」
「ぽよ!」
 カービィ達4人はシリカや騎士達が向かった方向とは別の方向に向かった。

 〜デデデ城 デデデ大王の寝室〜

 カービィ達が行動を開始したのと同じ頃。  ここデデデの寝室では、寝ているデデデをエスカルゴンが起こそうとしていた。
「陛下!起きるでゲスよ!」
「ふぁ〜…エスカルゴン、こんな夜にいきなりどうしたぞい?」
「『どうしたぞい?』じゃないでゲしょうが!なにやら城中が騒がしいんでゲスよ!」
「そんなことより急におしっこしたくなったぞい。う〜〜〜〜トイレトイレ」
「はぁ…まったく。とりあえず何が起こるかわからないから気をつけるでゲスよ」
 非常事態というのかもしれない上に人の話を聞こうとせず、自分のことしか頭に無いデデデにエスカルゴンは呆れていた。

 デデデはエスカルゴンのことを気にせず部屋の外に出てトイレへ向かっていた。
 そんなデデデのところへ今はワドルディ達を連れていないワドルドゥ隊長が一人で駆け寄ってきた。
「陛下〜!よくぞご無事で…」
「わ、ワドルドゥ?どうしたぞい、そんなに慌てて…」
「エスカルゴン殿は大丈夫でしたか?パーム大臣夫妻は現在地下の安全な場所に避難させてワドルディ達に護ってもらっていますが…」
「別に特に変わりはないぞい」
「それならよかった…」
「一体何があったぞい?エスカルゴンもお前も…」
「今城内でとんでもない化け物が暴れているんです!」
「ば…化け物?」
「とにかく危険なので陛下は早く部屋に戻られたほうが…」
「それよりも今はおしっこする為にトイレに向かう途中だったんだぞい、戻るわけには行かないぞい」
「ぬ?そうでしたか…では…!?へ、陛下!隠れてください!」
「な…なんぞい?」
 ワドルドゥ隊長はそう言いかけた瞬間何かの気配に気付き、デデデと共に物陰に隠れた。
 するとデデデとワドルドゥ隊長が隠れた場所のすぐ近くに、先ほどのジェクラに似た魔獣が進化した、異形の魔獣がやってきたのだ。
「グルルルルルル…」
 異形の魔獣は何かを探しているのかどうかはわからないが、キョロキョロしている。
「ウゥゥゥゥゥ…」
 そしてまたどこかへ歩いて消えてしまった。
 魔獣の気配が完全に消えた事を確認するとワドルドゥ隊長はデデデに話の続きをし始めた。
「あれが例の化け物です、陛下はおトイレが終わったら早く部屋にお戻りになってください。ワドルディ達に護らせます。私はそれからまだワドルディ達に指示を出す為、陛下のところへは戻れそうにありません。では、失礼いたします」
「わ、わかったぞい」
 ワドルドゥ隊長は走り去っていった。
「(ぐぬぬ…ワドルドゥの言っていた化け物も絶対MTSがこっちによこしたものぞい…。見ず知らずの魔獣を送るのは止めろと言うしかないぞい……と、その前にトイレへ行くぞい)」
 デデデはMTSに後で文句を言ってやろうと考えながらトイレへ向かった。




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