〜水の惑星・アクアリス〜 ここはMTSの支配下に置かれている水の惑星・アクアリス。 今、ここには気休めとして休暇をとり、自分達が支配している宇宙各地の惑星を旅をしているMTS首領のマルク、彼の妹グリル、グリルに付き従う絵画の魔女ドロシアと言った『MTS上層部』と呼ばれる3人がやって来ていた。 アクアリスは星全体が透き通ったとても綺麗な水で覆われており、その美しさから宇宙の観光地としても有名であると同時に宇宙の中で一番雨量の多い星であり、ほぼ毎日のように雨が降っているが、今日マルク達がやって来たこの日は運よく稀に見られる快晴であり、マルクとグリルが海で海水浴を楽しんでいた。 と言っても、マルクはただ浮き輪の上に乗っかってグリルが泳いでいる横を漂って彼女の話に付き合っているだけではあるが。 彼の横ではドロシアが宙に浮かんでいる。 「やっぱこの季節は海で泳ぐのが一番だよね、お兄ちゃん♪」 この宇宙で一番大好きな兄と海水浴をしているグリルはとても嬉しそうに横にいるその兄マルクに話しかける。 「だがグリル、お前は海が好きで良いのかもしれないけど、宇宙には海を嫌がっている奴もいっぱいいるんだぞ?」 「え〜?どんな理由で嫌いか私にはきっと理解できないよ〜」 「例えば、『風のにおいがしょっぱすぎる』とか、『塩が日焼けした身体に引っ付いたりするとヒリヒリする』とか、『海には危険な動物がいるから』とか『海よりもプール派』とか…理由は様々だ。人によって違う」 「あ〜、なんでこうも宇宙には私とは気の合わない人がいっぱいいるんだろう…」 「言葉や感情を持つ生物はそれぞれ考え方が違うのは当たり前の事だ。だから他人と良い関係を保つためにはあまり自分の考えを押し付けたりしてはいけない」 (グリルにとっては)とても難しい事を話し始めるマルク。 「…ふ〜ん」 グリルは難しい事を話されて、理解しているのかしていないのかよくわからない返事をマルクに返した。 だが、ここでマルクの横で空中に浮かんでいたドロシアが口を開いた。 「しかし、それは物事が自分の思い通りにならないと気が済まなかったり、この宇宙に住む全ての生命を自分の言う通りにしたいと考えてるお前がグリルに言うことじゃないだろう?」 「うっ…(やはり意外と鋭いな…ドロシアは)」 「ああ!そういうことだったんだ!有難う、ドロシア♪お兄ちゃんだって私のこと言えない、ってことでしょ?」 「そういうことだ、グリル」 ドロシアの言った事にマルクは黙り込み、グリルは話を理解できたのか、感心していた。 少し間を空けて、マルクがまた喋り始めた。 「……まあ、確かにドロシアの言うとおり、僕もグリルや他人のことを言えないかもしれないな。だが、感情や言葉を持つ生物は決して完璧にできているわけではない。僕に限らず誰しも、自分の思い通りに物事が上手くいかなかったらイライラするし、嘘だってつくだろう。そして、嘘をつくことに関しては、生まれてから死ぬまでずっと、真実のみを口にして一生を終えるという者は多分いないんじゃないか?」 「マルク、私はお前ならそういうと思っていたぞ」 「生物の心理というのは難しいものだな。僕も本を読んで勉強しているけど、心理学は本当に奥が深い」 「(うぅ〜…難しすぎて頭が痛くなってくるよぉ…)」 マルクとドロシアが話していることが難しすぎるのか、すぐ横で二人の話を聞いているグリルは心の中で文句を言うと同時に頭を痛めていた。 「ね、ねぇ!そろそろアクアリス支部に戻って休まない?」 難しい話はもうウンザリしているグリルがマルクにそう提案した。 「ん?それはまたどうして?(こいつ…間違いなく僕とドロシアの話していることに飽きたか、ついてこれないかに違いない…)」 マルクはグリルの考えている事を見抜きながらも、彼女に何故帰ろうと言っているのか理由を聞いた。 「だって!陛下とかからこうしている間に通信が来てたらヤバいじゃん!」 「ああ、確かにそうだな。今ここには防水通信機を持ってきていないし、そもそもあれは陛下の城のデリバリーシステムに対応していない…。わかった、グリル。お前の言うとおり、一旦アクアリス支部に行こう。だが、通信には応答しても、魔獣はもう今日は陛下に売らなくて大丈夫だからな」 「え?ど、どうして?」 「僕はさっきお前やドロシアと海水浴を始める前に『少しやることがあった』と言って遅れてやってきただろう?あのときにここのアクアリス支部の魔獣を保管してある場所にいた魔獣をすでに僕の魔法で直接ポップスターのププビレッジに転送してデリバリーシステム無しで送り込んだんだ。今回送り込んだのは力を使わなくともカービィを確実に殺すことのできる、ある意味最凶の魔獣だ」 「『さいきょう』の『きょう』って『強い』って方じゃなくて『おみくじの凶』の方?…ごめん、それがどんな魔獣か私思いつかないよ………」 「『襲った対象を15分で殺せる奴』と言ったらわかるか?医学を志した者なら宇宙の誰でも知っている惑星フロリアに生息する有名なあの虫を改良し、魔獣へと進化させたあいつだ」 「15分?……あ!わかった!!あの真っ黒い奴でしょ?」 「ああ、そのとおりだ。あいつならば今言ったように武力を使わなくてもカービィを殺せると思ってね。なにせ『魔獣たるものは力も必要だが、それだけではいけない。魔獣は美しく、独創的で、かつ神秘的でなくてはならない存在』だからな。あいつを使って今日は確実にカービィの命日にしてやろうじゃないか、ふふふ、ふっはっはっはっ……」 「きっと大丈夫だよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんの言うとおり、今日で絶対にカービィは死ぬって。その魔獣のおかげでさ。うふ…くふふふふふふ……」 マルクとグリルはカービィがその存在によって倒されるのが楽しみでしょうがない様子であった。 そして、惑星アクアリスの海の上で笑い声をあげている二人の言う『襲った対象を15分で殺せる真っ黒い奴』とは一体………。 マルク達が惑星アクアリスで海水浴をして過ごしているのと同じ頃。 カービィ今日は一人で、イローとその家族から貰ったスイカや、ウィスピーから貰ったリンゴをおやつとして家に持ち帰り、今からそれらを食べようとしているところだった。 同居しているトッコリは現在、いつものようにカービィのベッドを借りて昼寝をしており、カービィが今何をしているかなど知らない。 「ぽよ〜♪」 自分の大好物であるスイカとリンゴをいっぱい貰ったカービィはとても機嫌が良い様子であり、木製の荷車に積んであるそれらを運び、次々と家の中へ持ち込んで行く。 カービィが何個目かのスイカを家の中に持ち込もうとしたとき、カービィの目の前を見慣れない動物らしきものが横切った。 シャカシャカシャカシャカシャカ…… 擬音で表現するとこんな音を立てながらカービィの近くを通り過ぎた存在は、真っ黒いザトウムシのような奇妙な姿をしていた。 こいつこそがマルクが送り込んだ『真っ黒い奴』と言われていた魔獣であるのだが、カービィにわかるわけがなかった。 「ぽよ?」 偶然それを見たカービィはその存在を不思議に見つめ、興味を示したのか、おやつを思わずその場にほうってしまった。 「ふぁぁ〜…ん?カービィ、なにやってるんだ?」 丁度そのとき、トッコリも昼寝から目が覚めたらしく、カービィのベッドから出てこようとした。 「ぽ、ぽよぉ〜〜〜!」 だが、そのザトウムシのような姿をした奇妙な生き物…マルクの送り込んだ魔獣にカービィは興味津々であり、トッコリの呼びかけを無視し、魔獣の後を追いかけてどこかへ消えてしまった。 「お、おい!カービィ!!……あ〜、またどっか行っちまったよ。でもまあすぐ戻ってくるだろ……ZZZ…」 トッコリはカービィを呼び戻そうとしたが、カービィが興味を示したザトウムシのような生き物の存在を見ていなかった彼は『カービィがフラフラとどこかへ行くのはいつものこと。そのうち帰ってくる』と思い、また昼寝を始めてしまった。 カービィがザトウムシのような姿をした奇妙な生き物を追ってトッコリのいる自分の家を去ってから数分後…。 「カービィ〜!」 今日になってから自分達のところへ姿をまったく見せないカービィが気になったフームとナックルジョー、シリカがカービィの家にやってきた。 「散らかしっぱなしにしちゃダメでしょ、カービィ!…って、あれ?」 家の前の荷車に積みっぱなし、または家の中に転がっているたくさんのスイカとリンゴを見てフームは家の中に入りつつカービィを注意した。 しかし、どう見ても家の中にカービィはおらず、ベッドで寝ているトッコリしかいないことに気づく。 「ちょっと!トッコリ!!」 フームは大声で寝ているトッコリに話しかけ、起こそうとする。 「わあぁあ!…なんだ、フームかよ。びっくりさせやがって…」 耳元で大声を出されたトッコリは飛び上がり、目を覚ました。 「トッコリ、カービィを見てない?今日は一度も私達のところに来てないんだけれど………」 フームはトッコリにカービィの居場所を聞き出そうとする。 「あ〜?知らねぇよ、さっきあっちの方向へ行ったけど…そんなにカービィがやってこないのが不思議なことなのか?おいらは眠いからとっとと用があるなら早く済ませてくれ…」 トッコリは眠そうにしながらフームにカービィの行き先を教えた。 「……わかったわ」 トッコリの言った事を頭に入れたフームはカービィの家から外に出た。 カービィの家のすぐ外では、カービィが散らかしていたスイカやリンゴをまた荷車に積みなおして片付けながら待機していたジョーとシリカがいた。 「やっぱり朝からずっとカービィが私達のところへ姿を見せないのはなんだかおかしいと思わない?」 「ああ、俺もそう思う」 「何か事件に巻き込まれたという可能性もあるかも…」 フームの言った事にジョーとシリカが順番に答えた。 「トッコリはカービィはあっちの方向へ行ったって言ってたわ。あっちへ行ったらそれぞれ手分けして探しましょ!」 「おう!」 「うん!」 トッコリから教えられた方向にフーム、ジョー、シリカの3人は行方不明となったカービィを探すべく駆け出した。 「(カービィはどこへ行っちゃったんだろう………?)」 消えたカービィを探しに行った3人の内シリカは、フームがトッコリに教えられた方向にあった小さな林の中でカービィを探していた。 「ぽよ〜!」 「!!…カービィ!?」 探している途中、カービィの声を聞き、シリカはその聞こえた方向へ向かう。 「ぷえぇ〜〜〜〜!」 シリカがその方向へ向かうと、カービィがこちらへ走って逃げてきた。 カービィの後ろからは、先ほどカービィが興味を示し、追いかけた真っ黒なザトウムシのような動物が追っかけてきていた。 どうやらカービィの存在に気づいたザトウムシのような動物はカービィを襲おうと追いかけているらしい。 「ギシャアアアッ!!」 「ぷあああぁ!?」 ザトウムシのような動物はカービィに向かって鋭い牙の生えた口を開きながら飛び掛ってきた。 「!カービィ、危ない!!」 ザトウムシのような動物がその攻撃態勢に入ったとき、シリカがその動物とカービィの間に割って入った。 ガブッ グチュ!! 「ぐぅ……!!」 カービィを庇ったシリカはザトウムシのような動物…つまりはマルクが送り込んだ魔獣に右腕を噛まれてしまう。 その瞬間、彼女の右腕に激痛が走り、同時に傷つけられた事によって少量の赤い血も吹き出した。 「くっ…てやあぁっ!」 ヒュウゥン ザクッ! 「ギシュゥゥゥゥ…」 シリカは右腕に噛み付いた魔獣を強引に振り払って地面に叩きつけ、隠し持っていたサバイバルナイフで突き刺して止めを刺した。 ナイフで急所を刺された魔獣は絶命し、動かなくなった。 「ふぅ…終わった…。……う!くっ」 魔獣が倒れた事を確認したシリカはナイフをしまってその場を去ろうとするが、先ほど噛まれた部分がまだ痛むのか、左手で右腕の傷口を押さえた。 そのとき、シリカは傷口が血が出ていると同時に赤く腫れていることに気づく。 だが、あまり気にするほど対したものではないと思い、傷口から手を放し、魔獣の死骸に目をやった。 「やっぱりこいつも魔獣だったのかな……?」 「ぽよ?」 「あ!とにかく、カービィ。フーム達のところへ戻ろう?今日は皆カービィのことを朝からずっと見ないから心配してたよ?」 「ぽよ!」 シリカは少しザトウムシのような生物の正体のことを考えながらも、カービィに優しい言葉をかけ、とりあえず林から抜けて村へ戻ることにした。 シリカの言葉を聞いたカービィもニッコリ笑った。しかし、歩き出そうとしたシリカの身体に異変が起こる。 「うぅっ……」 フラッ……………… 「…しりか?」 「ん?いや、なんでもないよ?カービィ。早く皆のところへ帰るよ?(…なんだ?急に目眩が…)」 「ぽよ!」 原因は不明だが、シリカはいきなり立ちくらみを起こしたのである。 カービィに心配されたが、表面上は平気なフリをして、シリカは彼と共に林を抜けた。 その頃、カービィの家の前にはカービィのことを探しに行っていたフームとナックルジョーが丁度戻ってきたところであった。 「そっちにもいなかったの?」 「ああ。後はシリカを待つだけか…」 二人が到着し、カービィを見つけられなかったことをお互い報告してすぐに、元気そうなカービィが姿を見せた。 「ぽよ〜〜!」 「「カービィ!!」」 カービィはフームとジョーのところへ駆け寄った。 「どこ行ってたの?朝からこの村のどこにもいないから心配してたのよ?」 フームはカービィを見て安心し、ほっとしていた。 「そういえば、シリカは一緒じゃないの?」 「ぽよ」 フームがまだ戻ってきてないシリカが一緒じゃないのか、とカービィに聞くと、彼は腕で後ろを示した。 すると、少し遅れてシリカがカービィの後ろからフーム達のところへやって来た。 「シリカ!貴方がカービィを見つけてくれたの?」 「う…うん……」 だが、カービィと一緒にやってきたシリカは様子がおかしかった。 「お、おい。大丈夫なのか?」 ジョーはシリカの様子がおかしい事に気づき、声をかけるが、その瞬間、シリカは地面に倒れてしまった。 「お、おい!しっかりしろ!!それと、その腕の傷は…?」 ジョーは倒れたシリカに駆け寄り、頭をかかえる。 「はぁ……はぁ…はぁ…」 ジョーがシリカを見たとき、彼女は顔を赤くして汗をかき、息は荒く、表情はかなり苦しそうなものとなっていた。 右腕の一部分が赤く腫れている。 「大変!ひどい熱だわ!!」 シリカの額に手をあてたフームがそう言った。 「あまり信用無いけどヤブイのおっさんの診療所に連れて行こうぜ!」 「ええ!」 「ぽよ〜…」 ジョーとフームは二人で歩けなさそうなシリカを抱え、心配そうにしているカービィと共に村のヤブイの診療所へと向かった。 〜ププビレッジ ヤブイの診療所〜 ナックルジョーとフームはシリカをヤブイの診療所に連れてきた。 シリカは現在ベッドに寝かされ、診察を受けているところであった。 怪我をしている右腕には包帯がすでに巻かれて応急処置が施されていた。 「(う〜む……この症状ならもしかすると…)」 シリカの症状を見てヤブイは彼女に質問をする。 「さっき何か変わったことはありませんでしたか?その腕の傷を見る限りなにかに襲われたようにしか…」 「…はぁ……はぁ、ぐ…さ、さっき……いなくなったカービィを…うぐっ!…林へ探しに行ったとき…ぐぁ…見たことの無い動物に…ふぅっ!襲われて…いたカービィ…を、助けたときに…が…あ…カービィを…庇って……はぁ…その動物に……右腕を…噛まれて…ふぅ……」 ヤブイの質問にシリカは呼吸が困難となっているのだろうか、苦しそうに答えた。 ヤブイは続いてまた一つ質問をする。 「それはどんな動物でしたか?」 「……はぁ…はぁはぁ…確か……私と同じくらいの……大きさがある…………真っ黒い…クモみたいな…奴で」 するとシリカの返答を聞いたヤブイは本棚から分厚い本を取り出し、それを開いて何かを調べ始めた。 「ぬ?もしかすると、これのことかもしれん」 「なにかわかったのか?」 「ぽよ〜?」 一緒にいたナックルジョーとカービィ、フームがヤブイの持っている本を横から覗き込む。 開いたページに載っていたのは、カービィとシリカが遭遇したクモのような生物によく似た姿をした真っ黒い色をしたクモであった。 「ぽ、ぽよ!!」 カービィはそのクモの写真を見て叫んだ。 「カービィ、貴方やシリカが見たクモってこれ?」 フームの質問にカービィは無言で頷いた。 「でもおかしいのう」 「え?な、なにが?」 このクモを見たヤブイはある疑問を浮かばせていた。そして、フームは何がおかしいのかを聞く。 「このクモはこの星から少し離れた場所にある惑星…フロリアの限られた場所にしか生息しておらず、大きさも普通のクモとそんなに変わらないはずなのじゃが…」 「それはきっとMTSの仕業ね!」 「ああ、きっとそうだ。奴らが俺やカービィ、メタナイト、シリカ…星の戦士達を殺すためにそのクモを魔獣に変えて…」 フームとジョーはすぐにカービィやシリカを襲ったクモがMTSの手先であると察した。 「毒を治す方法はないの?」 フームはヤブイにそのクモの毒の治療法があるのかを聞く。 「う〜む、このクモの毒にやられたらこのクモが持つ専用の抗体を打ち込まないと治らないようじゃな。打ち込まなければ毒に侵されて確実に15分で死に至る」 「「じゅっ……15分!!??」」 「そ…そんな……」 ヤブイの発言にジョーとフームは驚愕し、シリカはショックを受けていた。 「15分だと!?おっさんの言うとおり本当に15分で死ぬならシリカが危ない!」 「大丈夫じゃ。宇宙のどこかにいるそのクモより強い毒を持っているクラゲよりかはマシじゃろう。確かそのクラゲに刺されれば一番早くて3分で死ぬとか…」 「そういう問題じゃねぇだろ!…で、シリカ!そのクモはどこへ行ったかわかるか?」 「………あのクモは…く…もう私が噛まれたとき…に反撃して…うぅ…もう倒しちゃ…った」 「おっさん!クモの抗体はそのクモが死んだ後に採取して毒に侵されてる奴に打っても大丈夫なんだろうな?」 「そのクモが死んでまだ何日もしてなければ有効じゃ」 「でも、ナックルジョー」 「ん?」 「もしカービィやシリカが遭遇したクモが魔獣だったとして、それがあの本に載っていたクモと違ってその治療法が効かなかったらどうするの?魔獣になっていたら体質が変わっていたりするかも…」 「ああ、確かにそうかもしれない…。でも試すほかにシリカを救う方法は無いだろ?」 「…そうね。もう本当に時間が無いから、早くしないと…」 「俺とカービィで林に行ってそのクモの死骸をここへ持ってくる!」 「わかったわ!来て、ワープスター!」 フームが新ワープスターを呼ぶと診療所の外にやって来た。 カービィはそれに飛び乗って空を飛び、ジョーは身体にオーラを纏って空を飛んでクモの死骸が残っていると思われる林へ向かった。 カービィとジョーの二人は林へ2分もしないうちに到着した。 そして、林の前まで来ると、カービィは新ワープスターから飛び降りて、ジョーはそのまま空中から着地した。 二人は林の中に入っていき、すぐに魔獣の死骸を見つけることができた。 「よし、これをはやく診療所に持っていこうぜ!」 「ぽよ!」 ジョーが魔獣の死骸を抱え、二人は診療所に持っていこうと林を抜け、カービィは新ワープスターに乗って帰ろうとするが…。 ビシュン、ビシュン!!ドガァァァン!! 「うわぁ!」 「ぽよ〜!」 突然二人の足元が爆発し、二人は転倒してしまう。 「な、なんだ?」 ジョーとカービィは起き上がり、周りをキョロキョロする。 「逃がしはしませんよ、『星のカービィ』と魔獣ハンターのナックルジョー…」 そう言ってカービィとジョーの目の前に現れたのは、MTS上層部の『代弁者』を名乗る魔獣・チクタクであった。 「今日はMTS上層部からわたくしに直接命令が下されました。『チクタク自らが動いて星の戦士達を始末しろ』…とね」 「邪魔だ!今はお前に構っている暇はねぇんだよ!」 立ち塞がったチクタクにナックルジョーが言い放った。 「ふんっ!!」 ナックルジョーの言葉を聞いていたのか聞いていなかったのかは定かではないが、チクタクは構わず二人に攻撃を仕掛けてくる。 チクタクの身体から音符型のエネルギー弾を飛んできた。 ビシュン、ビシュン! 「くっ…!」 「ぷあえ?」 カービィとジョーはなんとかエネルギー弾を避けるが、それで精一杯に見える。 ジョーは解毒に必要な抗体が隠されている魔獣の死骸を両手で抱えているため、手を使う事ができず、カービィは変身をしていないため、このままでは一方的に攻められ、仕舞いには時間がなくなり、診療所に間に合わなくなるかもしれないという状況に追い詰められそうになっていた。 「スピンキック!」 「ん?」 サッ! ジョーは手が使えない状態で、足だけでなんとかチクタクを追い払おうとスピンキックを撃つが、狙いが定まらず、チクタクに簡単に避けられてしまう。 「くそっ!」 このままではまずい…そう思っていたカービィとジョー。 だが、そのとき。 ボオオッ!! 「な、なにぃっ!?ぐおおっ!」 空中から炎の衝撃波が飛んできて、チクタクを吹っ飛ばしたのだ。 空から飛んできたのは間違いなくメタナイト卿であった。 メタナイト卿は悪魔の翼のような形になっていたマントを地上に降りて元に戻し、カービィとジョーのところへ駆け寄った。 「事情は診療所にいるフームから聞いた。奴の相手は私に任せろ。お前達二人は早く診療所に行け」 メタナイト卿の言ったことにジョーは頷き、カービィは新ワープスターに乗る。 そして二人は空を飛んで診療所に急いだ。 「来い!今のお前の相手は私だ!」 「貴方はこの前の戦いでは戦った事がありませんでしたが…まあ良いでしょう。MTSに逆らう愚か者には死あるのみです!」 村はずれの草原でメタナイト卿とチクタクの対決が始まった。 「つおおおあああっ!」 メタナイト卿はマントを翼状に変形させ、低空飛行でチクタクに迫り、斬りかかってきた。 シュゥゥゥゥン!! するとチクタクは自身の特殊能力である『時間を操る力』のバリエーションの一種である、『自分の時を進めて高速移動をする能力』で、メタナイト卿の突進をかわして跳躍をする。 続いて跳躍したチクタクは空中から地上にいるメタナイト卿に向かって音符型のエネルギー弾を連射する。 多数の音符型のエネルギー弾が地上に降り注ぎ、地上は爆発し、煙に包まれる。 「(この高速移動から続けて繰り出した攻撃を避けられるはずが…)」 チクタクはそう思って煙が晴れて地上でボロボロになっていると思われるメタナイト卿に更なる攻撃を仕掛けようとする。 しかし、その彼の予想は大きく外れた。 ピシュン! 「な!!?」 なんとチクタクの目の前にメタナイト卿が瞬間移動をしたかのように突然現れたのだ。 「とおっ!」 「ぶぎゃっ!!」 ヒューン ドズゥゥゥゥン!! メタナイト卿はチクタクの顔面に力強い蹴りを入れ、地上へ叩き落とした。 「ふっ!」 ボオッ、ボオッ、ボオオッッ!! 叩き落とされて隙だらけのチクタクにメタナイト卿はすかさず空中から波動斬りを3連続でギャラクシアから撃ち出し、攻撃をする。 「ぶべっ! うぐぉっ! ぐぎゃあっ!!」 メタナイト卿の波動斬りは3発ともチクタクに命中。炎が晴れた後、地上には身体のところどころが焼け焦げているチクタクがいた。 しかし、チクタクはまだ倒れておらず、起き上がって喋り始めた。 「思ったよりもより警戒すべきですね……。貴方の実力とその伝説の宝剣の力は…。ですがもう終わりです。貴方の宝剣をMTS上層部に捧げるとしましょう!!」 「…………」 チクタクは高速移動を使った後に跳躍し、空にいるメタナイト卿に突進してきた。 「ぬおりゃあ!」 突進してきたチクタクは飛び蹴りを仕掛けようとメタナイト卿に足を突き出す。 「ふっ!」 ガシッ!! 「な…なんと?!」 元々肉弾戦が苦手な魔獣であるチクタクの蹴り攻撃は隙だらけであり、メタナイト卿はギャラクシアを一旦鞘にしまい、右腕一つだけで、それも簡単に受け止めてしまう。 「うおおおおおっ!」 「わああああ!」 そのままメタナイト卿は空中でジャイアントスイングをし、チクタクを振り回してまっすぐ投げ飛ばす。 ブゥゥン、ジャキン!! 「喰らえッ!!」 バシュウゥゥゥゥゥン!! チクタクを放り投げたメタナイト卿は素早くギャラクシアを引き抜き、ギャラクシアソードビームをチクタクを投げた方向に撃つ。 ズガアァァァァァァァン!! 「うぐおおぉぉぉお!!」 ギャラクシアソードビームは投げられてまだ空中にいたチクタクに命中、超強烈な追撃を喰らったチクタクは地面に墜落する。 メタナイト卿はまたさっきもチクタクの目の前に来る際に使った、瞬間移動のような速度がとても速い高速移動を使ってチクタクのところへ向かう。 追撃を受けてもうボロボロになっているチクタクは自分に蓄積されたダメージの事よりも自分が一番大切にしている髭のことを気にしていた。 そして髭を触り、乱れていることに気づく。 「ぬおっ?ひ…髭が…」 ショックを受けている間にメタナイト卿が接近、チクタクに空中から急降下キックを決める。 「ぶへえ!!」 チクタクは吹っ飛ばされ、起き上がって体勢を整えようとするが、髭の方が気になって仕方が無い様子であった。 「ちょっ…ちょっと待ってください!髭が…」 敵に対して髭の話をし始めるチクタク。 しかし、メタナイト卿が攻撃の手を休める事はなかった。 「てやあああっ!!」 ズドオォォォォォォォォォッ!!!! ボロボロになっている上に髭を気にして動く事のできないチクタクに止めの攻撃としてエクスプロージョン・ザ・ギャラクシアを撃ったのだ。 「ひ、ひいぃぃぃぃぃぃぃ!!!?????」 標的を完全に飲み込んでしまうほどの太さを持った黄金の破壊光線がチクタクに迫る。 「ふっ!」 シ〜〜〜〜ン… だが、チクタクはエクスプロージョン・ザ・ギャラクシアを浴びる寸前で時間を止め、危機を免れた。 彼に当たるはずだった破壊光線は彼の目の前で止まっている。 「い…今のは本当に死んだかと思いましたよ……。ぐ…しかし、思わぬ怪我を負ってしまいましたな…」 時間を止めた中、独り言を言い始めるチクタク。 「まさかわたくしとしたことがこんな失敗をするとは…。マルク様やグリル様、ドロシア様になんと報告すれば良いか……くっ!とにかく一旦陛下のお城へ戻ることにしましょう……」 時間を止めた状態でチクタクはデデデ城に帰り、城の中へ入ったと同時に時間を止めているのを解除し、また時間が進み始めた。 ズドオォォォォォォォォォッ!!!! 時間が進み始めた事によって、メタナイト卿が撃ったエクスプロージョン・ザ・ギャラクシアがまた動き始めた。 しかし、その技を撃った後、メタナイト卿は目の前に誰もいないことに気づく。 「(やったのか…?それとも、逃げられたか…。それは明日のあの放送を見れば倒せたか逃げられたかわかるだろう。あの距離から逃げられたとしたらあの魔獣が時間を操る能力を持っていると考えれば充分有り得ることだな…)」 メタナイト卿はチクタクを倒せたのか逃げられたのかを考えながら、その場所を後にした。 時間は少しだけ前に遡る。メタナイト卿が草原でカービィとジョーを逃がし、チクタクと戦い始めていた頃。 クモのような魔獣に噛まれ、診療所のベッドで横になっていたシリカは毒による症状が悪化していた。 「はぁ……はぁ…ぐ…あぁ……が………ふぅ…ふぅ…はぁ」 「こりゃまずいのう。心拍数が異常に増えておる」 「しっかりして!もうそろそろカービィとジョーが戻ってくるから…」 シリカは呼吸が困難となっている所為で苦しすぎてもう喋る事もできず、熱は下がらず、目からは涙が溢れてとまらず、ヤブイの言うとおり心拍数も平常時よりも増加している。 今すぐ死んでしまってもおかしくない状況だ。フームはなんとか彼女を元気付けようと声をかけ続けている。 そんな中、ついにカービィとジョーが戻ってきた。 「戻ったぞ!」 ジョーは手にクモの魔獣の死骸を抱えていた。 「これが…」 クモの魔獣を実物で見たフームは目を丸くしている。 「ああ、こいつで間違いねえ。おっさん、早くこいつの身体の中から抗体を見つけ出してくれ」 ヤブイはジョーに魔獣の死骸を渡されると、ヤブイは大急ぎで魔獣の体内を調べた。 「これか!」 「やった!魔獣になっても身体の構造は変わっていなかった!!」 ヤブイが抗体を見つけ出したと聞くと、ジョーはガッツポーズを取った。 ヤブイは魔獣の体内から抗体を採取し、それを注射器に入れた。 「ふぅ……ふぅ…が…はっ…あ…はぁ……」 「シリカ、もう少し我慢してろよ。これでもうきっと治るから…」 ヤブイとフーム、ジョー、カービィはベッドで苦しんでいるシリカのところに駆け寄る。 ジョーは苦しんでいるシリカの頭を優しくなでながら励ますような言葉をかけ、ヤブイがシリカの腕に抗体をセットした注射を打った。 プスッ 「あ…あ………が…」 注射器から抗体がシリカへと注入されていく。 注射を打ってしばらくすると、シリカの表情は苦しそうなものではなくなっていき、次第に楽そうな顔になった。 「き…効いたのか?」 ジョーを初め、そこにいる4人はシリカを見つめている。 そして、シリカはスヤスヤと寝息を立てて寝始めてしまった。 「うむ。熱も下がってきておるし、心拍数も元通りだし、呼吸も正常。抗体が間違いなく効いたようじゃな」 「「やったあ!」」 「ぽよ!」 現在のシリカの状態を調べたヤブイの言ったことを聞き、フームとジョー、カービィは大喜びしていた。 数分後、眠ってしまっていたシリカが起き出した。 「あ…あれ……?全然苦しくない…?」 「シリカ。カービィとジョーが貴方を治すための抗体を持ってきてくれたのよ」 目が覚めたシリカにフームが最初に声をかけた。 「ぽよ!」 「まったく、心配かけさせるんじゃねぇよ…」 「カービィとジョーが……私を助けてくれたの?」 「ええ、そういうことね」 するとシリカはまだベッドの上にいるが、カービィとジョーの方を見てこう言った。 「カービィ、ジョー。もっと近くに来て」 「ぽよ?」 「…おい、なんでだよ?」 「いいから早く!…カービィは、背が低いからベッドの上に来て」 カービィとジョーは妙なことを言いだすシリカに『え?』という感じになったが、とりあえず彼女の言うとおりに動いてみた。 すると…。 ぎゅっ! 「「!!」」 シリカが突然、自分のすぐ近くまで近づいた二人のことを抱きしめたのだ。 左の腕でカービィを、右の腕でジョーを抱きしめている。 「ありがとう…二人とも…」 二人の耳元でそう言ったシリカの目からは涙が流れた。 「お、大げさだって…」 「ぽよ…」 抱きしめられているジョーとカービィは照れており、顔を真っ赤にしている。 「(ああ…良かった…)」 安心しているフームは心の中でそう言いながら、その光景を見てニッコリと微笑んでいた。 猛毒を持ったクモの魔獣を利用したマルクの星の戦士を抹殺する計画は失敗に終わったのであった。 |