〜リップルスター 西の地区のとある場所 MTSの宇宙船の外〜 MTSの宇宙船の外では、報告をしてきた兵士妖精と共に宇宙船のところまでやってきた女王の姿があった。 女王は、宇宙船のスピーカー越しからのグリルの声に聞く。 「あなた方はなにが目的なのですか?」 女王の質問にすかさずスピーカー越しから話しているグリルが答えた。 「今日からこの国…いや、星は私たちMTSの物よ!大人しく言う事を聞いて逆らわずに私たちに従うのならこの星の住人命は助けてあげるわよ?言う事を聞かない場合は逆らった者を攻撃するけどいい?」 グリルの要求に女王、そして周りの兵士は困惑した。 「女王様、ここは『外の世界の者』の言う事に従ったほうが…。そうすれば我々は助かるみたいですし…」 女王の近くにいた一人の兵士は、MTSの言う事に従うべきだと提案した。 「…いえ、ここは『外の世界の者』に逆らいましょう」 「ですが…」 「ここは私たちの国です。もしここで『外の世界の者』たちに従ったら私たちは彼らの言いなりです。それどころか、この星も…この国も…」 「どうするの〜?言う事聞くぅ〜?聞かない〜?」 スピーカー越しからグリルが女王に話しかけてきた。 「貴方たちには従いません!」 「やった〜!そう言うのを待ってたよ〜!」 「!?」 女王や兵士たちは、グリルの予想外の反応に混乱する。 「貴方たちがそう言ってくれなきゃこの星に来た意味なかったもの。そうと決まれば私たちとゲームをしない?」 「??」 妖精たちはグリルの言葉がよく理解できないようで、首を傾げている。 そんな妖精たち…特に女王に向かって自分がしようとしていることを説明する。 「要するに遊ぶのよ、遊ぶ!今からそこの一番偉い人はここへ連れてこられる前にいた場所に時間を上げるから戻りなさい。そして私たちが貴女がその場所に戻った、という報告を聞いたら攻撃を開始するわ!で、私たちが貴女を見つけ出して討ち取ったら私たちの勝ち。逆に私が貴女を探している途中で倒れたら貴方たちの勝ち。…どう?」 「女王様…」 一人の兵士妖精が女王を不安そうな顔で見つめる。 「いいでしょう。受けてたちます。戦は初めてですが、絶対に貴方たちにはこの国は渡しません」 「その調子よ。じゃあ貴方はさっきいた場所に戻って」 グリルに言われたとおり、女王は報告用の兵士妖精と共にさっきまでいた城へ飛んで戻っていった。 しばらくして、報告をするために一人の兵士妖精がやってきた。 「女王様はもといた場所へ戻りました(やっぱり『外の世界の者』に利用されてるだけなんじゃ…)」 報告をした兵士はそう考えつつもグリルに報告した。 「わかったわ。じゃあ、貴方たち?覚悟は出来てる?因みにこの宇宙船は攻撃を仕掛けられたら自動でバリアーが張られて守られる仕組みとなっているから攻撃して破壊する事はできないわよ」 グリルに聞かれた兵士たちは戦いを始めるべく、身構えた。 「存分に楽しんできなさい!!」 ピッ!ブオオオオオン… グリルはそう言いながら操縦席にあるなんらかのスイッチを押した。 すると大型宇宙船のハッチが開き、中から最初に雑兵であるラガルトンシリーズの魔獣やアンドロンシリーズの魔獣、絵画から生まれた魔獣などが一斉に飛び出した。 「ウオォォォォォォォォ!!!!」 魔獣たちはハッチから飛び出すと目の前にいた妖精たちに襲い掛かる。 こうして、リップルスターを舞台に、MTS侵略部隊と惑星リップルスター妖精軍の惑星全面戦争が幕を開けた。 惑星リップルスター側は女王曰く『戦いは初めて』とのことらしいが、その戦いが初めてとは思えないほどMTSの雑兵の魔獣相手に善戦していた。 実は兵士の妖精たちは日々もしものことに備えるための訓練をしていたのだ。 惑星リップルスターに住んでいる妖精たちはMTSの調査隊が調査したとおり、二つのタイプに分類される。 一つが一般の妖精が該当する『一般型』、もう一つが女王とエスピリトなどの兵士妖精が該当する『戦闘型』である。 戦闘型に該当している妖精は、攻撃魔法を使うことができ、これで普段は火事と言った災害などを防いで一般型の妖精たちを助けている。 今回はその攻撃魔法を本当に攻撃に使用してMTSと戦っているのだ。 「はあっ!!」 ビシュウウン!! 「ギャアァオオ!」 一人の兵士妖精が手のひらから撃った攻撃魔法…エネルギー波がラガルトンシリーズの魔獣の内の一体を倒した。 そして妖精たちは次々と攻撃魔法を放って雑兵の魔獣たちを倒していく。 「なかなかやるわねぇ〜…」 宇宙船内の操縦席では、グリルが思ったよりも魔獣より強い妖精たちに感心していた。 「グリル様、ここには普通程度の魔獣を3匹ほど置いてから別の場所に向かってはどうでしょう?そしてまたそちらで魔獣を撒いての繰り返しなんてのは…。女王をすぐに探しに行くのもあっさり終わってつまりませんから…」 同じく戦況を見ていたボーラルがグリルに提案をした。 「わかったわ。じゃあここはあなたの言うとおり3匹ほどある程度の強さを持った魔獣を置いてほっといておこう?」 グリルは開いた宇宙船の開いたハッチからガルベルを1匹、ティンダロスを2匹出現させ、妖精たちにぶつけた。 「じゃあ後は適当に頑張っといてね〜」 魔獣たちを残して、宇宙船は飛び、魔獣を撒いてない場所へと向かった。 玉座の間では、MTSと戦う事を決めた女王と、彼女を護衛しているエスピリトとプリステス、そして多数の兵士がいる。 「なんとしても女王様をお守りせねば…!」 エスピリトたちはいつ城に攻め込んでくるかわからないMTSに備えていつでも戦えるように身構えている。 しかしそんな中、女王がエスピリトを初め、周りの兵士妖精全員に命令をする。 「エスピリト、プリステス。貴方たちは外で戦っている人たちを助けに行きなさい。他の皆さんは、お城の前で陣形を作って護りを固める人とエスピリトたちと一緒に外で戦っている人たちを助けに行く人とで分かれてください」 「え?そ、そんなことを言われましても…我々は女王様を……」 「私は一人で大丈夫です。外で戦っている人たちはどうやら『外の世界の者』相手に苦しんでいます」 実はこの妖精の女王もまた不思議な力の持ち主で、彼女は全ての妖精と意思疎通をしており、見なかったり遠くにいたりしても他の妖精たちがどのような状態なのかを感じ取る事ができるのだ。 「…わかりました。今すぐ助けに行きます」 「女王様…どうかお気をつけて…」 女王がそのような能力を持っているということをすでに知っているエスピリトたちは直ちに命令どおり、外へ外にいる他の兵士たちを助けに行くために飛び立っていった。 城で女王を守っていた何人かの兵士たちと共に外で戦っている兵士たちの救援に出かけたエスピリトとプリステスは、現在兵士たちとMTSの量産型の雑兵魔獣たちが混戦状態となっている場所にやってきた。 「プリステス、早く助けよう!」 「ええ!」 エスピリトたちは空中から地上へと降り、エネルギー波や魔力弾などの攻撃魔法で敵を蹴散らしていく。 「グオオオオ!!!」 「!!」 何体か敵を倒した後、エスピリトの真正面からトラの魔獣…ガルベルが突進してきた。 「ふっ!」 エスピリトは空を飛んで突進を避け、空中から標的を見失ってキョロキョロしているガルベルに向かって手のひらからエネルギー波を撃ち出して攻撃をした。 ビシュウウン!!ズドォン! 「ガオオオッ!!」 ビシュビシュウビシュウウン!! 怯んだガルベルに続けてエネルギー波を3発撃つエスピリト。 「オ゙ォォォォォ…」 エネルギー波を3発連続で浴びたガルベルは地面に倒れた。 そのエスピリトの近くでは、プリステスがアンドロン・タイプW型6体を相手に奮戦していた。 ジジジジジ!! アンドロン・タイプW型は全員、腕の電磁シールドを起動させてプリステスにそれをぶつけるために近づく。 プリステスはそれを姿勢を低くして避け、すかさず閃光のような攻撃魔法を繰り出す。 シュゥゥゥゥン… 閃光を浴びたアンドロンたちは機能を停止した。 しばらくするとエスピリトたちの救援が入ったおかげか、周囲の魔獣たちは数が減ってきていた。 だが、そこへなにか巨大な怪物が2匹近づいてきた。 「ガアアァァァァァッ!!」 妖精たちのところに現れたのは大きなサルのような魔獣・エルギガンデスであった。 2体のエルギガンデスは巨大な棍棒を妖精たちに向かって振り下ろす。 「皆、避けて!」 エスピリトの指示で他の妖精は全員攻撃を避け、空へ飛んだ。 「はっ!!」 空へ飛び立ったエスピリトは閃光を2体のエルギガンデスの顔の前で放つ。 「「グオオオオオッ!!!」」 2体のエルギガンデスは激しい光に苦しみだし始めた。 「今だ!!」 エスピリトの号令と共に彼も含んだ空中にいた妖精たち全員が2体のエルギガンデスに向かってエネルギー波や魔力弾を一斉に発射した。 「「グギャアァアアァオォオオォ……」」 ズガアァァァアアァン!! エネルギー波と魔力弾の雨を浴びた2体のエルギガンデスはダメージに耐えられず、爆死した。 その後も妖精たちは次々と残った雑兵の魔獣を倒していき、いつの間にか周囲からは魔獣がいなくなっていた。 「この辺りの化け物は全部片付いたみたいだね」 「そのようだわ」 敵を全滅させたエスピリトとプリステス、そして他の妖精たちはひとまず安心したが、まだこれで終わったわけではない。 他の場所ではまだ魔獣たちが暴れまわっているのだ。 「次はどこへ行く?」 「皆で手分けしてそれぞれの場所で戦っている人たちを助けに行きましょう」 手の空いた妖精たちは手分けして他の場所の救援に行くことにしたが…。 エスピリトやプリステスたちが戦っているのと同じ頃のこと。 グリルとボーラルの二人は、宇宙船から降りて、妖精たちが住んでいた街を破壊して遊んでいた。 だが、そんなことをしてる中、グリルが不満を漏らした。 「やっぱ住人がシェルターに逃げてるとさぁ〜、街を破壊しても逃げ惑う姿が見れなくてつまんないと思わない〜?ボーラルぅ〜?」 「そうですね…。貴方の言うとおり人が逃げ惑う姿を見れた方が私も楽しいと思います」 「だよねぇ〜。もうこんなことしてても退屈だし、早くあの巫女様みたいな格好してる偉そうな人を殺しに行こうよ〜。そうすればもう私たちの仕事も終わってお兄ちゃんにも褒めてもらえるしぃ〜♪じゃあ宇宙船はここに置いたままで直接飛んでいって探し出すとしようかなぁ〜?」 街を破壊するのに飽きたグリルがボーラルを連れてリップルスターの女王を探し出そうとしたそのとき。 彼女はなにかの声が聞こえてくる事に気がついた。 「しく…しく…ぐすっ……」 「…誰かいるの〜?」 グリルはボーラルと一緒に声が聞こえてくる方向へ歩いて向かった。 すると、彼女らは瓦礫の物陰でピンク色の髪の毛を持ち、赤い服を着た一人の小さな妖精の少女がしくしく泣いているのを見つけた。 グリルはその妖精の少女の頭を掴み、自分の顔の前まで彼女を持ってきてわざと怖い声を出しながら脅した。 「あんた、そんなところでなに泣いてるのよ。まさか逃げ遅れた?私たちが襲ってくるまでに4日もあったのに……」 「お願いです…助けてください、ひっく…お願いです……お願いです……ぐすっ」 脅された妖精の少女は泣きじゃくりながらグリルに命乞いをしている。 「私は人が苦しんだり悲しんだりして泣く姿も結構好きよ…。ん〜、ここまできてやっと心が満足したって感じね」 「貴方たちは…どうしてこんなことをするんですか…?何故…貴方たちはこんなことをしなければならないんですか…?」 妖精の少女は目の前にいる魔女・グリルが何故この星を攻撃しに来たのか。 どうして彼女たちはこういうことをしなければならないのかわからなかった。 ただ、恐怖で涙をぽろぽろ流して泣く事しかできなかった。 「これは私のお兄ちゃんのためにしてることよ。ま、今ここで私に殺されるあなたが知ってもしょうがないことだと思うけど…」 「!!!え……や、やめてください、お願いします…おね…が…」 グリルが殺そうとしてくると、妖精の少女は再び命乞いを始めた。 「もう同じ言葉を何度も聞くのも飽きたわ。ここで死んでよ、ウザいから」 「や…………や………やめ…て……」 グリルは左手で妖精の少女の頭を掴んで上に持ち上げ、右手に火球『フレイムボール』を作り出し始める。 「これで終わりよ」 「いや……!」 グリルは右手に作った火球を少女に押し当てようとしたが………! 「あ、や〜めた」 「え?」 グリルは突然、少女を手から離し、右手に作っていた火球も別の場所に撃ってしまう。 「グリル様?」 横で黙ってみていたボーラルはグリルのその行動にさすがに驚いたらしく、思わずグリルに声をかけた。 「急にお兄ちゃんが怒っている顔思い出しちゃった。そうしたらお兄ちゃんの『不必要な殺しはするな』っていう言葉も一緒に頭の中に浮かんだの。それに、私またお兄ちゃんに怒られるのイヤだし」 「ほう…」 ボーラルは理由に納得したのか、返事をした。 グリルは妖精の少女の方を向き、冷たい口調で話し始めた。 「いい?あんた、本当は死んでいるはずなのに命を助けられたんだからありがたいと思いなさいよ?せいぜいその助けられた命は大切にね」 「…え?え?」 妖精の少女も、先ほどまで殺されそうになっていたのに、殺されずに命を助けられた事に戸惑っていた。 そしてグリルはボーラルのほうを向き、これからどうするべきかを話し始める。 「じゃあボーラル。あんたは先にあの巫女様みたいな人のいる場所を探しといてよ」 「それはよろしいのですが、貴方はこれからどうするのです?」 「私はちょっと後からあんたとは別の場所探しに行くから。この星を散歩してみたいのよね」 「じょ…女王様にあって何をするんですか……?」 横でその話を聞いていた少女がグリルに聞いた。 「決まってるじゃない、倒してこの星と国を私たちのものにするのよ」 「貴方たちはどうして…うっ!」 少女はグリルに向かって反論しようとするが、彼女に胸倉を掴まれてまた脅されてしまう。 「うるさいわね、殺されたいの?」 「す……すみません…でした……」 少女はベソをかきながらグリルに従い、すぐに反論するのをやめた。 「早速私に助けられた命を無駄にしようとしたわね、あんた。まあいいわ。もうあんたはどこにでも好きなところに行きなさいよ、どうせこの星は私たちのものになるわけだし」 グリルは『すでにこの星は自分たちのもの』と決めつけたかのように少女に向かって言った。 「じゃあそういうことでボーラル、あんたは先にとっとと女王様を探し出してその首を私やお兄ちゃんに捧げるための準備をしなさい。私は後からそっちに行くから」 「わかりました、ではお先に失礼します。そして、女王を亡き者に…」 グリルとボーラルはお互いにこれからやることを再確認した後、妖精の少女を廃墟となった街に残してそれぞれ反対の方向の空へと飛んでいく。 「…………」 命拾いした妖精の少女は、空の彼方に飛び去っていくグリルとボーラルを呆然と見つめていた。 ――グリルに見逃されて命を助けられた、名もなき妖精の少女。 彼女は後に重要な役割を担い、カービィたち星の戦士と共にMTSをも超える『強大な闇』に立ち向かっていくこととなるのだが、それはまだまだ先の遠い未来の話であった…。 |