〜夜 デデデ城廊下〜 現在、プププランドは真夜中で、デデデ城の住人も寝静まっている時間帯。 だが、そんな静かすぎて怖いぐらいの城のかなり暗い廊下を歩いている人物が1人いた。 昼間突然ププビレッジに現れ、成り行きでデデデ城に来る事になった、謎のバイオリニストの男・ジャクソンである。 彼は寝ることが出来ないのか、何か目的があるのかは不明だが、ただ何も考えずにブラブラと愛用のバイオリンをケースに入れて持ち歩いている。 すると、突然彼の後ろから何者かの声が聞こえてきた。 「ガメレオアーム、この星で遊んでいる気分はどう?」 「ん?その声は……」 ジャクソンの背後に転移魔法を使って現れたのは、MTSの副官のグリルと、先日からグリルの側近及び護衛、世話をする係を担当する事となった上級ランク魔獣のシミラとウィズの合計3人であった。 「グリルじゃないか!待っていたぞ、運命の女よ…。その女神に仕えるシミラ…と言ったな?お前もなかなか魅力的だな」 「…………」 「いきなりそういう挨拶するのはやめて、って何回言ったら気が済むのよ…。シミラも困ってるじゃない!」 「それはともかく、腹が減ったからオムライスをくれないか?」 「夜食〜?相変わらず食べるわね〜…。カービィのようなナイトメアが生み出した魔獣はもちろん、あんたのようなお兄ちゃんが生み出した魔獣って、私やお兄ちゃんのように食べる事を必要としない魔獣以外はなんで大食いばっかりなのかしら?じゃあ、そんなことなら…ウィズ!貴方今すぐ帽子の中からオムライスを出してガメレオアームにあげなさい」 「はい、直ちに」 グリルに命令されたウィズは、頭のシルクハットを取り外し、その中からオムライスを出現させ、それをジャクソンに渡した。 「悪いな」 「ガメレオアーム〜、聞いて聞いて〜。ウィズの帽子は本当に便利なのよ〜。ドロシアの、魔法の絵筆を使って『描いた絵を実体化させる』っていう能力を違った形で引き継いでいるんだけど、とにかく自分が念じたものは何でも帽子の中から出せちゃうのよ。もちろん戦闘用の魔獣もね。そういえばどこかの青いネコ?タヌキ?型ロボットが持っているポケットそのものや、そこから出す、何でもものを取り寄せる事ができる便利バッグとかいうウィズに似た能力を持ってたような気がするけど、あれって……」 「グリル様、それ以上直接的な表現を使って話されるのは権利的な問題で危険です」 「あ!ご、ごめんね〜…」 「…マルク様がいないときは、貴方のストッパー役はこの私シミラに任せるとマルク様が仰っていたもので。ストッパーとはこういうことを言うのですか?」 「貴方がそう思うならそれで良いんじゃない〜?でなければもっと詳しい事はお兄ちゃんに聞いたら〜?」 グリルとシミラが話している横で、白い皿に乗ったオムライスをジャクソンはウィズから受け取ると、瞬時に2頭身の美形の男の姿から、2足歩行のカメレオンの怪物のような姿へと変身する。 そう、ジャクソンこそがチクタクを殺した張本人である魔獣のガメレオアームだったのだ。 ガメレオアームはオムライスを皿ごと大きな口を開けて一口で食べてしまう。 バリッ ボリッ ガリッ 廊下中にガメレオアームが鋭い牙で皿を噛み砕く音が響き渡った。 「そんな大きな音で食べないでよ!誰かにこうして密会してるところ見つかったらどうするの!?」 グリルはガメレオアームの耳元で、それも小声で注意をした。 「トイレにでも行こうとしてる奴がいない限り、バレたりはしねぇな。…多分。それに、俺にはいざとなれば姿を消す能力がある。そういえばこの能力で女の子達にあんなことやこんなことをするってのは今まで考え付かなかったな…」 「……好きにしてちょうだい。それで女の子がいる部屋に侵入するんでしょ?」 「そのとおりだ。よくわかったな。よし、朝までフームとシリカの2人が寝てる部屋に入ってその見飽きない寝顔を見つめ続けているか」 グリルはもちろん、シミラやウィズもガメレオアームのその発言と思考には完全に呆れていた。 その後もガメレオアームは女性と自分に関係したことをあれこれと言っていたが、なんとかグリルが話をつけようと口を挟んだ。 「………とにかく!この国が朝を迎えて、しばらくしたら私とシミラとウィズもまたこっちにくるから。それから貴方と同じ、上級ランク魔獣の『マスコローゾ』も夜が明けて昼間になった頃にこの星に送り込むからね」 「マスコローゾ?ああ、あのライオンくんか。前にナイトメア軍に所属していた魔獣の…」 「それと、貴方には貴方と以前コンビを組んでいた魔獣と一緒にいてもらうから。……出てきていいよ、シャードロ」 グリルは右手の人差し指の指先に明かりの代わりに小さな炎を出現させ、それを自分の背後に向かって照らした。 すると、浮かび上がった影から黒い色をしており、軟らかそうな身体を持っている謎の化け物が出現する。 「フシシシシシ……」 「シャードロ、貴方は今から前と同じようにガメレオアームと一緒に行動するのよ。その間は、また前みたいにガメレオアームの言う事に従いなさい」 「フシシシ」 『シャードロ』と呼ばれた魔獣は、グリルがガメレオアームの背後を炎で照らして作った影に溶け込み、再び姿を消した。 「『死刑執行人(パニッシャー)』と呼ばれる俺に並んで、『異次元からの刺客』、『暗殺ソムリエ』と呼ばれるこいつがまた俺の元に来てくれるとはな……。これで女の子を襲う準備は整ったな」 ガメレオアームのそのスケベな発言に、グリルとシミラは少し嫌な表情でガメレオアームを睨んだ。 「まあ、そんな顔をするなって。それよりも、生き物が一度に生きる時間は短いが、夜は長い。お前達3人もこれから楽しい夜を過ごそう」 「なんでそんな話になるわけ!?…私達は一旦戻るから、貴方も怪しまれないうちにどこかに行って」 「じゃあこれからやってくるライオンくんにもよろしくな」 「はいはい」 グリルとシミラ、ウィズの3人は転移魔法でハーフムーンに帰っていく。 残されたガメレオアームは魔獣の姿から人型のジャクソンへと戻り、また暗い廊下の奥へと姿を消した。 〜翌朝 デデデ城 フームの部屋〜 プププランドは日が昇り、朝を迎えた。 現在、ナックルジョーとシリカの2人がやってきてからは、ナックルジョーはブンの部屋で、シリカはフームの部屋でそれぞれ一緒に眠っている。 フームの部屋では、フームとシリカの2人がベッドでスヤスヤと眠りについていたが、そんな2人の寝顔を同じ部屋の中に入ってじっと見ている者がいた。 先ほど廊下でグリル達と会話していたガメレオアームこと、女好きのジャクソンである。 しばらくして、差し込んできた日の光に気がついたフームが目を覚ました。 「う〜ん………」 フームは眠そうに目をこすっており、まだどんな状況になっているかは気づかない。 「ふぁ……」 続いてすぐにシリカがあくびをしながら目を覚まし、起き上がる。 しかし、起きたばかりの2人が意識をはっきりとさせてから見たのは驚くべき光景であった。 「おはよう、俺の女神達。今日も女神のように麗しい。そして、さっきまでの寝顔も女神のような美しさだったぞ。あぁ、今日も最高の日だ!」 「ちょっ、ちょっと!なんで貴方そんなところにいるのよ!?」 フームはたまらず顔を真っ赤にして目の前にいたジャクソンに向かって怒鳴った。 シリカも怒りはもちろんのこと、同時に羞恥も重なって顔をしかめ、赤くする。 「いや、昨晩からずっとだ」 そんな2人を気にすることなく、ジャクソンは飄々とした態度で答える。 「スケベ!ヘンタイ!!ナンパ男!!!」 ジャクソンの行動に完全にキレたフームは普段からは考えられない態度に豹変し、自分の使っていた枕と、シリカが使っていた枕の2つをそれぞれ両手に1つずつ持ち、ジャクソンに向かって投げつける。 「怒ったときの顔も可愛いぞ?2人とも…」 ジャクソンは身軽な動きで飛んできた枕を回避する。 「シリカ、ちょっと私に合わせて!」 「えっ?な、なにを?」 「いいから!」 シリカに自分に何かを合わせるように言ったフームはジャクソンのところへ走っていき、彼をアッパーカットで真上に殴り飛ばし、それに続きシリカがフームの指示で跳躍し、ジャクソンを下に蹴り落とす。 最後は2人でタイミングを合わせて同時にジャクソンを力強く殴った。 「ぶッ!!!」 殴られたジャクソンは転がって部屋の壁にぶつかった。 ゴロゴロゴロ…ドカァ! 「……女に殴られるのも、悪くはない」 ジャクソンはそう言って起き上がろうとしたとき、自分の口から血が出ていることに気づいた。 その血の色は、緑色をしており、他人からすれば異常であると思われるだろう。 「(!!!…まずい、俺の血の色は独特だからバレたら怪しまれる……)」 右の手の甲でフームとシリカの2人に気づかれないように自分の口から出ていた緑色の血を拭き取ると、ジャクソンは起き上がり、先ほどと変わらない態度でフーム達のところまで戻ってくる。 窓からは明るい朝の日差しが差し込んできていた。 「それにしても、今日もいい天気だ。君達を見てると心も晴れてくる」 「……………」 フームとシリカは、女好きの軽い性格であり、痛めつけても全く悪びれずにいる彼にやはりついていくことができず、完全に呆れて言葉を失っていた…。 〜数時間後 ププビレッジ〜 そんな騒ぎから数時間後のことである。 ジャクソンはブンと、村の子供達のイローとホッヘの3人と一緒に村のメインストリートまでやってきていた。 「あの〜、どうしたら女の人に人気になれたりするのですか…?」 突然、イローがジャクソンに話しかけた。 「おっ?俺直伝の『スペシャル・レッスン』でも受けるのか?」 「「「『スペシャル・レッスン』…?」」」 「そう!この俺ジャクソン様のスペシャル・レッスンで俺から直々に教えられた事をしっかりと頭の中に入れておけば、ボウヤ達でも必ず女の子を自分の虜にすることができる!では、まず最初は女の子にモテるための俺からの『3つの教え』を伝授する!」 「「「『3つの教え』?」」」 「そうだ、この3つの教えを自分のポリシーとして常に心がければ女の子に好かれる。じゃあ俺がそれを1つずつ言うから、お前達3人も繰り返してみろ。リピート・アフター・ミー!1つ目。『男が女の子にやってはいけないことは、女の子を泣かせること』!」 「「「『男が女の子にやってはいけないことは、女の子を泣かせること』!」」」 「2つ目。『女の子と喧嘩するときは泣かない程度に手加減をすること』!!」 「「「『女の子と喧嘩するときは泣かない程度に手加減をすること』!!」」」 「3つ目。『傷ついた女の子にはやさしい言葉をかける』!!!」 「「「『傷ついた女の子にはやさしい言葉をかける』!!!」」」 ブン達3人は、ジャクソンに言われたとおり、彼の言った言葉を3人で口を揃えて全て繰り返した。 「素晴らしい、よくできた。次は早速このジャクソン様がお手本を見せるから、お前達3人もそれを見て、俺がいないところでも女の子に優しくできるようにしてくれ」 「あ、姉ちゃんとカービィだ!」 偶然にもカービィとフームがちょうど自分達の近くを通りかかろうとしているのを発見したブン。 するとジャクソンはブン達3人を自分達の後ろにあった茂みの方へと隠した。 「丁度良いな。早速1000年に一度の天才のジャクソン先生がボウヤ達のためにお手本を見せてやる。いいか?ちゃんと見ておけよ?」 ジャクソン達4人がいる場所を彼らの存在に気づかず通り過ぎようとするフームにジャクソンが声をかけた。 「やっと見つけた、俺の女神…。さぁ……今から俺と一緒に行こう」 「ど…どこに…?」 「知れたこと。暗いところだ」 「貴方……今朝のことを私がもう忘れたとでも思ってたの!?」 「い!?」 「はああぁぁッ!!」 ドガアアァァン! 「ぐぎゃッ!!!」 ジャクソンの顔を見るなり、今朝と同様にフームは同じ女性でも日頃から身体を鍛えている星の戦士のシリカほど強くはないが、かつてメタナイト卿から習った空手で鍛えたその強烈な鉄拳を彼の顔面に喰らわす。 顔面に一撃を喰らったジャクソンは地面に倒れる。 「だ…大丈夫…ですか?」 「しっかり!」 「ぽよ〜」 「ブン、イロー、ホッヘ!貴方達、何してるの?」 茂みの後ろにいたブンとイロー、ホッヘの3人と、フームと一緒にいたカービィが顔面への鉄拳制裁を浴びて倒れたジャクソンを心配して駆け寄る。 ブン達の存在に気づいていなかったフームは突然出てきたブン達に声をかけた。 「実は姉ちゃん、この人がさ……」 ブンはフームに訳を説明しようとするが、そうした途端にジャクソンが何事も無かったようにムクッと起き上がる。 「い〜や!3人とも、俺ともっと遊ぼうぜ、な?このレッスンは正直言って2時間じゃ足りないな、3時間…いや、深夜までやろう。夜のレッスンの方が楽しいからな」 「え?ちょっ、ちょっと……」 またしても周囲を置き去りにしてジャクソンは自分だけで勝手に話を進め、ブン達3人を連れてカービィとフームのいるところからスタコラサッサと逃げ出してしまった。 数分後、ジャクソンとブン達3人は村から少し離れた、デデデ城に続く緩やかな坂道の端の、草原の長い草むらの中に隠れていた。 恐らくジャクソンの『草むらに隠れて女の子を待ち伏せする』などと言った指示に従って3人の子供達も草むらの中に隠れているのだろう。 「さっき思いっきり殴られてたけど、あんなので上手くいったって言えるの?」 ホッヘが、先ほどフームに顔面を殴られたジャクソンにさっきのはお手本として成り立っているのかどうかを問う。 「言ったろ?さっきのは俺がポリシーとしていることの最初の2箇条である、『男が女の子にやってはいけないのは、女の子を泣かせること』、『女の子と喧嘩するときは泣かない程度に手加減すること』に当てはまっている。あれでもちゃんと上手くいってるのさ」 「なんかいい加減だな〜…。どこが『スペシャル・レッスン』なんだよ…」 ブンはジャクソンの言ってることに不満を持ったのか、少し文句を言う。 それに対してジャクソンはまた的外れな返事を返した。 「さぁて…どうしたものかな…!俺は気まぐれだからなぁっ、はっはっは!!!」 そんな中、彼らが隠れている草むらの前をブン達3人の友達で、今までこの場にいなかったハニーが通りかかろうとしていた。 「あっ!ハニーだ!!」 ハニーと相思相愛の仲であるイローは草むらから飛び出してハニーに声をかけようとする。 だが、それをジャクソンが引きとめた。 「待て。ここはまた俺がお手本を見せてやるからここにいるんだ」 「どうせまたあんたが痛い目に遭うだけだろ〜?」 ブンは溜め息をつき、今から行動を起こそうとするジャクソンに悪態をつく。 「いや!今度はお前達もちゃんと納得できるようなお手本を見せるから安心しろ。ちょっと3人とも、目の前の道をよく見てくれ」 「ん〜?」 ジャクソンに言われたとおり、ブン達は自分達の目の前にある道に注目する。 目の前には躓けば転びそうな石が転がっていた。 「あっ!石ころがある!」 「ちょっとハニーちゃんにはかわいそうだが、あのまま真っ直ぐ進んで石に躓いてもらう」 「な…なにをするつもりなんですか?」 イローはハニーが傷つくと聞いて心配する。 「おいおい、そんな都合よく躓くわけが…」 「良いから見ていろ…」 都合よく石ころに躓くわけがないと言おうとしたブンを制したジャクソンは、草むらの中で、そこからはみ出ないギリギリの位置まで前に出る。 ハニーは全くジャクソンやブン達に気がついていない。 「よし、お前の出番だシャードロ」 ジャクソンは後ろにいるブン達に気づかれないように、昨晩から自分の影に溶け込んでいる魔獣・シャードロに対してかなりの小声で指示を与えた。 「フシシシシシシ」 シャードロもジャクソンの頼みに小声で応じ、なにをするのかわかりきってるかのように行動を開始する。 シャードロはジャクソンの影からブン達3人や通りかかろうとしているハニーに気づかれないように身体を伸ばし、ハニーの背後に接近。 そしてハニーが道にある石に躓く直前に、シャードロはハニーの足元を引っ掛けるように軽く攻撃した。 それだけするとシャードロはすぐさまジャクソンの影にまた溶け込んだ。 「キャッ!!」 「「「!!!」」」 シャードロの存在に気づけず、完全にハニーが石によって転んだと思っているブン達を横目に、ジャクソンは草むらから飛び出して転んでしまったハニーに声をかける。 「大丈夫かい?さあ!こっちを見るんだお譲ちゃん。今日も目が離せないぜジャクソン」 「あ、あの……」 「いや、心配する必要はない。今からこの俺が病院に連れて行ってやる。それから……」 「グガオォォォォッ!!!」 「「!!!!???」」 ジャクソンが話を続けようとした途端、すぐ近くから吠え声のようなものが聞こえてきた。 そこにいた全員は驚き、周囲をキョロキョロと見渡した。 すると、城の方から3頭身の人型で、2足歩行をしているライオンのような顔をした怪物がこちらに向かって走ってきた。 「グアアアアアァァァッ!!!」 「ぐわッ!!」 「キャッ!」 「「「わあああぁぁっ!?」」」 その怪物はジャクソンとハニーを突き飛ばし、そのまま村の方へ向かった。 怪物に突き飛ばされたハニーに、草むらに隠れていたブン達3人は思わず飛び出して駆け寄った。 そのハニーにイローが真っ先に声をかける。 「ハニー、大丈夫!?怪我は!?」 「うん、平気。大丈夫。それよりも…ジャクソンさんは…?」 「あ、あれ?そういえば………」 ハニーの言葉で、ブン達は怪物に突き飛ばされたジャクソンが消えていることに気がつく。 ジャクソンが消えたことに気がつきながらも、ハニーは話を続けた。 「それと、さっき私が転んだと思うんだけど、あれは石で転んだんじゃないの」 「え!?じゃあ何で転んだの?」 「わからないわ…。なんか足を他の人に引っ掛けられたような感じで…」 「……?」 ハニーは実はジャクソンが仕組んでいた事に少し気がついていたのだが、自分が転んだ原因はなんだかまだわからないという。 話を聞いているブン達も、ハニーの転んだ原因がわからず、首を傾げるばかりであった…。 ライオンの怪物に突き飛ばされたジャクソンは、ブン達がいた場所からかなり離れた、村の近くの川の土手の辺りにいた。 「いってぇ〜…。まさかライオンくんに邪魔されるとはなぁ〜……。もう少しボウヤ達には俺のレッスンに付き合ってもらうつもりだったが、こうなったら予定変更だ。怪しまれないうちに城の方へ帰るか……」 ジャクソンが身体を起こして城の方面へと帰ろうとした、その時。 「きゃあぁぁぁぁぁぁッ!?」 「あん?」 すぐ近くで女性の悲鳴が聞こえてきたのだ。 「なんだか知らないが、様子を見に行くか…」 ジャクソンは持ち前の能力で姿を消し、悲鳴がした方向の様子を見に行った。 ジャクソンは土手の上から川辺を除くと、主婦と思われる女性のキャピィ族が先ほどのライオンの怪物こと、グリルが送り込んだ魔獣であるマスコローゾに襲われていた。 「(ライオンくんはなにやってんだか…。本当なら攻撃して追い払ってるところだが、何せグリルがこっちに送ってきたんだ。直接手を出したときにちょっと襲うのを止めさせるか)」 「そこのお前。何か面白い事はないのか…?」 「いや…!こっちに来ないでください……!」 「聞いてるんだ。何か面白い事はないのか、って……」 マスコローゾはジャクソンが様子を見ていることに気づかず、目の前にいる民間人に繰り返し『面白いことはないのか』と聞く。 聞かれているキャピィ族の女性は怯えていてそれどころではなく、逃げようとしているが腰を抜かしていてなかなか逃げ出すことができないでいる。 「仕方ねぇな。…シャードロ、お前があのライオンくんを見張っていてくれ。あいつがあの人を襲おうとしたらお前の攻撃で動きを止めるんだ」 「フシシ」 シャードロはジャクソンの影から抜け出し、マスコローゾとマスコローゾに襲われている女性に気づかれないようにマスコローゾの影に溶け込んだ。 それを確認したジャクソンは城の方へと帰っていった。 「早く答えろって言っているんだ。面白い事はないのかという質問に。答えられないなら……お前が消えろぉぉぉォォッ!!!」 「きゃああぁッ!!!」 怒りっぽい性格のマスコローゾはおどおどしている目の前の女性を見て頭にきたのか、殺そうと襲い掛かる。 ジャクソンの指示で影に溶け込んでいたシャードロがそれを止めるべく攻撃しようとするが……。 「待て〜!!」 大声を上げてその場に駆けつけてきたのはパトロールをしていてたまたま近くを通りかかった村の警察官・ボルン署長であった。 「村人に危害を加えるなら許しませんぞ!!」 村人とマスコローゾの間に割って入ったボルン署長は服からリボルバー式の拳銃を取り出し、マスコローゾにその銃口を向ける。 「そ、それ以上動いてみなさい!撃ちますぞ!!」 「ふっはっはっはっは……」 警告を恐れることなくマスコローゾはボルン署長と女性に向かって一歩前に出る。 「わ、わあぁぁぁッ!!」 バキュン!バキュン! 一歩前に出てきたマスコローゾにボルン署長は女性を庇いつつ、リボルバー拳銃の引き金を引いて発砲する。 しかし、マスコローゾの強固な皮膚の前には拳銃による銃撃は全く効いておらず、無駄に終わった。 ボルン署長が気がついたときにはマスコローゾはすぐ目の前までやってきていて、右手で掴みかかってきた。 ボルン署長の身体を右手で掴んだマスコローゾはそのまま空中へと放り投げる。 投げ飛ばされたボルン署長は空中で一回転しながら地上に腰のほうから叩きつけられてしまう。 ドスン!! 「うぐっ…こ…腰が……」 「署長さん!しっかりしてください!!」 「グルルルル……」 腰を強く打ったボルン署長は痛みで動けなくなってしまい、守られていた女性が心配して彼の身体を起こそうとする。 だが、2人の後ろからはマスコローゾが迫る。 マスコローゾは2人をまとめて殺害しようとしたが…。 ズガアァァァァンッ!! 「ぐっ…なんだ……?」 土手の方からマスコローゾに向かってミサイルランチャーが放たれた。 襲われていた2人を土手の上から攻撃して助けたのはシリカであった。 シリカは土手から駆け下りるとボルン署長と村の女性を襲おうとしていたマスコローゾの前に立ちはだかり、蹴りを入れて吹っ飛ばす。 マスコローゾを吹っ飛ばすと、シリカは腰を打って動けなくなっていたボルン署長に声をかけた。 「大丈夫ですか?」 「あぁ、貴方はカービィのお友達の……」 「署長さん、あの化け物の相手は私に任せてください。2人で早く安全な場所へ」 「署長さんは村まで送っていきます」 シリカは腰の痛みで動けないボルン署長に肩を貸して起こした後、自分から申し出てくれた、村の女性に署長を運ばせた。 ボルン署長と村の女性が避難した後、吹っ飛ばされたマスコローゾが起き上がり、態勢を立て直す。 「この俺に戦いを挑もうとは…。身の程知らずというのはお前のような奴のことを言うのだな」 「お前もMTSの魔獣だな!?」 「はっはっは、面白い。始めようじゃないか」 マスコローゾは右腕を回すという独特の仕草を見せた後、シリカに襲い掛かる。 「ふっ!!」 ダダダダダダダンッ!! シリカはクロスガンをマシンガン形態に変え、マスコローゾを攻撃。 しかし、マスコローゾの皮膚の前には先ほどのボルン署長の銃撃が効かなかったのと同じようにマシンガンの弾丸は全て弾かれてしまった。 「無駄だ。この俺にそんな攻撃は効かん!!」 「!?」 マシンガンの弾に怯まずにマスコローゾは突進し、シリカの首を掴み、強く絞めつける。 「う…ぐぅ……」 ギリギリギリギリギリ… 「ガルルルルルル……」 「が………あ…」 首を絞められ、反撃する事ができないシリカ。 だが、彼女は密かにマスコローゾが隙を見せる機会を窺っていた。 そして彼女が狙ったとおり、マスコローゾは油断して一瞬首を絞める力を緩めてしまう。 「くっ……たあぁッ!!」 「グッ!!」 シリカはマスコローゾの隙を突いて彼に両足蹴りを食らわせ、脱出する。 すると、マスコローゾが何かを思い出したかのようにシリカに話しかけてきた。 「そういえば、俺はお前とどこかで会ったような覚えがある」 「ど…どういうことだ……?」 「どれくらい昔だったかは忘れたがな。お前を見ていると、ずっと昔から敵同士だった気がするよ」 「私からしたらお前は今日初めて見る顔だ。気のせいなんじゃないのか?」 「フッ。確かにお前の言うとおり、気のせいかもしれないな。昔から俺は人の顔とかを覚えるのは苦手なものでな。ただ、そんな俺でもはっきり覚えている事がある。それは、俺は昔ナイトメアのところにいた魔獣で銀河大戦という戦争が起きたとき、銀河戦士団の初代リーダーである奴と戦った事がある…ということだ」 「!!!!!」 マスコローゾのその言葉は、話を聞いていたシリカを驚愕させた。 銀河戦士団の初代リーダーが誰であるか、及びその存在のことはシリカは知らなかったため、そのことに驚いたのはもちろんのこと、もし目の前にいる彼の言っている事が本当の事であれば彼はいつの時代から生きているのか。 シリカはそのようなことを、自分の現在の状況がどうなっているのかを思わず忘れるほど、棒立ちになって頭の中で考え込んだが、マスコローゾの声を聞いて我に返る。 「何を棒立ちになっている?戦いは終わってなんかいないぞ!!」 「はッ!!?」 考え事をしていたシリカは反応がかなり遅れ、目の前までやってきていたマスコローゾの攻撃に気づく事ができず、気がついたときはもう遅かった。 マスコローゾは右腕から鋭い爪を生やし、無防備な状態のシリカの腹部に突き刺してきた。 グサッ!! 「ぐ……うぅ…!!!」 爪で貫かれた腹部の傷口からはもちろん、同時にシリカの口からも赤い血が流れ出した。 「まだ終わりじゃないぞ」 「はぁ…はぁ……」 シリカにはマスコローゾのその言葉の意味がわからなかったが、その直後に意味を思い知らされる事になる。 ズババババババッ!! 「うわあああああッ!!!」 なんと、マスコローゾがシリカの腹部に突き刺していた爪が爆弾のように爆発したのだ。 予想外のこの攻撃にシリカは驚かされると同時に、喰らった爆発で吹っ飛ばされる。 「ぐあっ……」 吹っ飛ばされたシリカは仰向けの状態で地面に叩きつけられた。 叩きつけられたシリカは運悪く地面に置かれていた石によって利き腕である右腕を負傷し、その弾みで武器であるクロスガンを落としてしまう。 負傷したシリカはなんとか左腕の方で武器を拾うが、利き腕ではないほうの左腕で武器を扱う分、不利な状況へと陥ってしまった。 「くっ……」 右腕と腹部からは赤い血が流れ続け、右手にはめているグローブと戦闘服の腹部から下の部分を赤黒く染めた。 怪我をしているシリカに構わず、マスコローゾは攻撃を続行しようとする。 しかし、そんなマスコローゾの影が突然本人の意思とは全く関係なく、勝手に伸び始めたという謎の現象が起きた。 「なんだ?これは…まさか…」 「はぁ…はぁ……」 マスコローゾは自分の影に成りすましていた『何か』の正体に気がついたらしく、そのまま戦闘を続行する姿勢を見せる。 マスコローゾから伸びた影は、シリカに向かっていき、今度はシリカの影と一体化した。 「………?」 マスコローゾの影が勝手に動いていたのにシリカは気付いたものの、何がなんだかさっぱり理解できずに影を見つめていたが、彼女も怪我をした身体でマスコローゾとの戦闘を続行する。 「グガアアァァァッ!!」 「ぐッ!!」 右腕を真っ直ぐ突き出し、殴りかかってきたマスコローゾをシリカはクロスガンをナイフ状態にして受け止める。 しかし、利き腕ではない左腕を使っているのと、元々パワーが自慢と思われるマスコローゾ相手に力比べでの勝負は勝てるはずがない。 「(な、なんてパワーなんだ……!!)」 首を絞められたときにも実感していたが、シリカはマスコローゾの剛力を直に感じ取っていた。 マスコローゾとの力比べで完全に圧倒されているシリカに、いきなり何者かによる更なる追い撃ちが仕掛けられる。 シュルシュルシュルシュルッ 「うあッ!?」 シリカの影はついさっきマスコローゾの影が伸びたのと同じように突然伸び、細長くなって彼女の身体に巻きついて、締め上げてきた。 ジャクソンがマスコローゾの影に監視が目的で忍び込ませた魔獣のシャードロだ。 「ぐっ……身体が…動かない……!!」 「グオオオォォッ!!」 「うあああぁッ!!!」 黒くて細長い何か(シャードロ)によって身動きが取れなくなったシリカにマスコローゾは強力な蹴りを一発入れ、吹っ飛ばす。 続いてシリカの影から出現したシャードロは黒い弾丸をシリカに向かって飛ばした。 「ぐあああッ!!」 魔獣達の攻撃で追い詰められてしまったシリカ。もはやこれまでかと思われたが……。 「バルカンジャブ!!」 ズガガァァァン!! 「グウゥゥアッ!!」 「ヌアオォォッ!!」 2つの気弾が2体の魔獣を怯ませ、傷ついたシリカを救った。 「!! ジョー…!」 ナックルジョーがシリカを助けに来たのだ。 「シリカ!大丈夫か?…って、酷い傷だな……」 シリカに声を掛けたジョーはすぐに彼女の右腕と腹部の怪我に気がつく。 「だ、大丈夫よこれぐらい……」 「無理はするな。あいつらの相手は俺がする。それに、こんなときに強がられても…」 「いや、私も戦わせて。敵も2体、こっちも2人でしょ…?」 「そんなこと言われてもな…お前利き腕を……」 「構わない。まだ動ける分、引き下がるわけにはいかないから」 「わかった。お前がそこまで言うなら一緒に戦おう。けど、無理はするなよ」 「わかってる」 「どうした?来ないのか…?」 「フシシシシシ」 ジョーはシリカに肩を貸し、身体を起こしてあげるとマスコローゾとシャードロの2体と対峙する。 「てめぇら、よくもシリカを痛めつけてくれたな……!」 「はっはっはっは…なかなか楽しませてくれそうだ」 ナックルジョーはシリカを怪我させたマスコローゾに静かな怒りを見せ、向かっていく。 シリカは残ったシャードロと戦う事になった。 シリカも苦しめられたマスコローゾのその腕力にはナックルジョーも手を焼いた。 「(正面から力比べをするのは無謀か……。だったら…!!)」 ナックルジョーはマスコローゾを突き飛ばすと距離をとり、右の拳にエネルギーを溜め、必殺技のパワーショットを放とうとする。 しかし、マスコローゾはそれを見越していたのか、素早く右腕の爪を先ほどシリカに対して攻撃した際と同じように伸ばす。 そしてそれをジョーに向かって飛ばしてきた。 「うわッ!?」 ズバババババッ!! 「(距離を離せば爆発する爪が飛んでくるのか……どうしたら…)」 ジョーは飛ばされてきた爪を回避するが、単純な力比べでは勝てず、かと言って今のように距離をとれば、速射砲のような速さで撃ち出されるミサイルのような爪で攻撃をしてくるマスコローゾ相手になんとか対策を練るべく、頭を悩ませるのであった。 腹部と右腕に怪我を負っているシリカは、相手の影の溶け込んで不意打ちを仕掛けてくるシャードロを相手に苦戦していた。 「はあああッ!!」 利き腕ではない左腕でナイフ形態にしたクロスガンを振り回して攻撃するが、シャードロには当たらず、逆に隙を作ってしまうだけであった。 すぐにシャードロは影に溶け込んでシリカの背後から頭突きを繰り出しながら襲い掛かってくる。 「うあああッ!!」 後ろから頭突きを浴びたシリカは前に転倒する。 その直後、シャードロは複数の自分の分身を生み出す。 分身は一斉にシリカに襲い掛かり、シリカはナイフによる攻撃で応戦するが、数には敵わず、次第に押されていく。 分身そのものの耐久力は低く、シリカがナイフで数発斬り付けただけで消滅してしまうのだが、手負いのシリカにはナイフで何度も敵を斬るというのも少し難しい状態であった。 「(なかなか数が減らない……なんとかしないといけないんだけど…)」 2人が魔獣と戦っている中、騒ぎを知ったカービィとフームが駆けつける。 カービィが駆けつけたことに気がついたナックルジョーはマスコローゾを押さえ込みつつ、現在の状況を説明する。 「ぽよ〜!」 「カービィ、助けに来てくれたのか!俺の方は大丈夫だからシリカの方へ行ってくれ!あいつ、怪我をしてるのに無理しててさ…俺は止めたんだけど、あいつはどうしてもって言うから……。急いでくれ!」 「カービィ、行きましょ!!」 「ぽよ!」 ジョーの話を聞き、カービィは、ジョーの隣でシャードロに苦戦しているシリカのほうへ向かう。 「シリカ!カービィも一緒に戦うわ!!」 シャードロに苦戦するシリカの元に、カービィとフームがやってきた。 隣ではナックルジョーがマスコローゾ相手に奮戦している。 「あ…ありがとう。私、また皆に迷惑かけて情けないところを見せちゃったな……」 「皆そんなの気にしてないわよ。さあ、カービィ!川の水を吸い込んでウォーターカービィになって!!」 「ぽよ!」 カービィはフームの指示に従い、川の水を吸ってウォーターカービィに変身。 シリカとのタッグでシャードロに挑む。 |