副編集長の鎌田様作・アニメ版星のカービィ 第2期予想小説
第38話・前編
〜前哨戦〜



 〜ウィザード・フォートレス 社長室〜

 MTSの首領・マルクは社長椅子に座り、窓から外の風景を眺めていた。
 社長机の前にはマルクが先日マキリタを助ける際にポップスターに送り込んだ2足歩行で金色の身体を持った大柄な魔獣『ギガゴルド』と、もう2匹ギガゴルドの左右に巨大な角と銀色の身体を持った魔獣がマルクの方を見て立っている。
 2匹の魔獣は姿は殆ど同じだが、体表に見られる溝の色が片方は赤、もう片方は青という違いが見られた。
 窓の方を見ていたマルクは社長椅子をギガゴルド達の方へと変えた。
「ギガゴルド、そしてメガシルバ兄弟。今日はお前達にポップスターに行って奴らを始末してきてもらう」
「グルルル…」
「今グリルがデデデ陛下にそれなりに強い魔獣を2体買わせた。お前達はカービィ達と魔獣が戦っている場所で先に待ち伏せて、その魔獣がやられてカービィ達が消耗したところを襲ってトドメを刺せ。わかったな?わかったら僕がお前達を転移魔法でポップスターに転送しよう」
 マルクの命令に2体の『メガシルバ』と呼ばれた魔獣のボス格と思われるギガゴルドが黙って頷き、マルクが転移魔法をかけることで3体の魔獣は魔法陣が発する光の中に消えた。


 〜ププビレッジ 荒れ地〜

「行くぞい!魔獣バタファイア、ピーザーよ!」
 MTSから魔獣を購入し、デデデ大王とエスカルゴンは早速魔獣達をカービィ達にぶつけて来た。
 荒れ地にある池からはデデデ大王にピーザーと呼ばれた巨大なカニのような姿の魔獣が、上空からは同じくバタファイアと呼ばれた火に包まれたコウモリのような姿の巨体を持つ魔獣がカービィ、ナックルジョー、シリカの3人に襲い掛かる。
「バタバタバタバタバタバタアァァッ!!」
「ピイィィィィザアァァァァッ!!」
「気を付けて、3人とも!」
 フームの指示でカービィ達はまず空から体当たりを仕掛けてきたバタファイアの攻撃をかわす。
「食らえ!」
 バババババババッ!
 攻撃を避けてすぐにシリカがクロスガンをマシンガンの形態に変えて、池にいるピーザーに向かって撃った。
 しかし、ピーザーの硬い身体にはマシンガンの弾程度の攻撃は全く通じず、全て弾かれてしまう。
「ぐッ…!」
「ピー!ザー!」
 ビュン!
 ピーザーは攻撃してきたシリカに対し腕を長く伸ばして鋏で殴ろうとしてきた。
「くッ!!」
 ドゴオォォォンッ!
 横っ飛びで鋏を避けるシリカだったが、彼女の後ろにあった岩はピーザーの攻撃でバラバラに砕け散る。
 もしまともに食らっていたらかなり危なかったであろう。
「(遠くからの攻撃は全部跳ね返されるのなら、奴の弱点がどこか見つけて近づいていってそこを攻撃すれば…!)」
 ピーザーへの対抗策を練るシリカの横にナックルジョーが空から着地した。
「シリカ。お前の考えてることは大体わかるぞ」
「え?」
「硬い身体で攻撃を弾くあいつの弱点がどこか探してるんだろ?」
「ジョー…貴方ももしかして?」
「ああ。そのもしかしてだ。同じことを考えてる。奴の弱点を見つけたら一気に近づいて倒すぞ!」
「うん!」
 ナックルジョーもシリカに協力し、2人の戦士は甲殻魔獣の弱点を探る。

 その頃上空ではカービィが新ワープスターに乗り、既にジョーの協力でファイターカービィへと変身した状態でバタファイアと空中戦を繰り広げていた。
「バルカンジャブ!」
 カービィは左右の手から気弾を撃つが、バタファイアは素早くそれを避けてしまう。
「バタバタバタバタッ!」
 ボオオオッ!!
 バタファイアも反撃と言わんばかりに口から火の玉をカービィに対し連続で吐いて来る。
 しかし新ワープスターの飛行能力のおかげでカービィはこれを難なく回避。
 回避した後、カービィは真っ直ぐバタファイアに向かって突っ込んでいった。
「はああぁぁッ!」
「バタバタッ!」
 正面衝突しそうになった瞬間、カービィはバタファイアの体当たりを下に避け、拳にエネルギーを集めてバタファイアが自身の真上にやって来た瞬間に上に跳躍した。
「ライジンブレイクッ!!」
「バタアアァッ!!?」
 カービィの強力なアッパーカットを浴びたバタファイアは怯み、突き上げられて吹っ飛ばされる。
 しかしバタファイアはすぐに態勢を立て直し、新ワープスターに乗るカービィの方へと向き直った。
「バタアアァァァッ!!」
 カービィに向かって火の玉を吐きつつ、接近するバタファイア。
「バルカンジャブ!スピンキック!」
 自分の方へと向かってくる火の玉をカービィは気弾で相殺していくカービィ。
「バタバタバタアアアアァッ!」
 だがいくら相殺してもバタファイアの火の玉を出す勢いは止まらず、更には身体中から次々と、それも速度を上げて放ってくる。
 対抗してそれすらも素早くバルカンジャブやスマッシュパンチ、スピンキックを連射して相殺していくカービィ。
 激しい気弾と火の玉の撃ち合いになったが、バタファイアの火の玉の連射の速度は時間と共に速くなっていく。
 何かを待っているかのように…。

 カービィ達3人と2体の魔獣が激しい戦いを繰り広げる中、崖の上からその現場を偶然見つけてしまった者がいた。
 ププビレッジに潜伏している上級ランクの魔獣・ガメレオアームである。
「やってるな。俺が手伝ってやる…と言いたいところだが、今日はマルクからは手を出すなと言われてるし、あいにくこれから合コンの約束もある。『合コンの神』と呼ばれたこの俺の…」
 ガメレオアームが1人で語ろうとしているところ、彼の影がニュッと伸びて肩を叩いてきた。
 ガメレオアームの影から実体化したのは暗殺が得意なことからガメレオアームとコンビを組んでる魔獣・シャードロ。
「ん?」
「フシシシ」
「…あぁ、わかった。お前のことについてはマルクは何も言ってない。判断はお前に任せる」
 ガメレオアームは声を掛けてきたシャードロにそれだけ言って身体を透明にし、気配と姿を完全に消した。
 残されたシャードロは実体から再び影のようになり、崖を伝って戦いの場へと下りていく…。

「バタバタバタバタ!!」
 ボオオオオッ!!
 バタファイアが火の玉を放つ速度は時間経過と同時に増していき、カービィは必死でバルカンジャブとスピンキックで対抗していたが…。
「バタッ!」
「ぷあああッ!」
 バルカンジャブとスピンキックで相殺しきれなかった火の玉がついにカービィを直撃。
 カービィはバランスを崩して新ワープスターの上から落ちてしまう。
「バタバタバタ!」
「カービィ!!」
 地面へと真っ逆様に落ちていくカービィに迫るバタファイア。
 落ちながらバタファイアに襲われそうになるカービィを見て、フームは思わず叫ぶ。
「ふっ、スマッシュパンチ!!」
「ギャアアァァッ!?」
 フームの声を聴いたカービィは意識を取り戻し、近づいてきたバタファイアに向かって右手からスマッシュパンチを撃って反撃。
 その後飛んで来た新ワープスターに乗って地面に着地する。
 バタファイアも後を追い、今度は地上でカービィと対峙し、第2戦目が始まった。

 ナックルジョーとシリカの2人はピーザーの弱点を見つけることが出来ず、苦戦が続いていた。
「色んな部分を攻撃して試してみたが…今のところ弱点らしい箇所はないみてぇだな」
「攻撃は全部あの身体に弾かれた…。それにあいつは池から絶対に出て来ようとはせず殆ど動いてない…」
「ピー!ザー!」
「…!!また来るぞ!」
 ピーザーは目を光らせナックルジョー達を狙ってビームを発射。
 ビーム攻撃を左右別々の方向に跳躍して避けるナックルジョーとシリカ。
 避けた後、また違う角度からピーザーに攻撃を加えようとしたナックルジョーだったが、彼の背後から黒い影のような何かが接近してきた。
 その影の正体はガメレオアームと別れて戦いに乱入してきたシャードロだった。
「あッ!?ジョー、後ろ!!」
「なにッ!?…ぐッ……!!」
 ジョーの方に目をやったシリカが気付いた時には既に遅く、ジョーは後ろを振り向いた瞬間にヘビのように身体を伸ばして巻きついてきたシャードロに胴体と両足を縛られ、動けなくなってしまった。
「くそッ…こいつ……!」
 締め付けられつつもジョーは縛られなかった両手でヘビのようになったシャードロの身体を掴んで引っ張り、強引に引き千切ろうとする。
 シャードロはそれに臆することなく動けないジョーの左腕に口を近づけてそのまま噛み付いて攻撃した。
 ガブッ!!
「ぐわあぁ……ッ!!」
 鍛えられた腕をも貫く噛み付きに思わず声が出る。
 だが噛み付いて攻撃してきたシャードロの頭部をナックルジョーは噛み付かれていない右腕で掴み、今度はそちらを引っ張った。
「うおぉぉぉッ!!」
 ビュン!!
 ジョーはシャードロの頭部を引っ張って自分から引き離す。
 噛み付かれた左腕は負傷し、傷口からは赤い血が流れ出すが、ナックルジョーは気にする様子を見せず反撃を開始。
「スマッシュパンチ!」
「フシシシ…」
 ナックルジョーが放った渾身のスマッシュパンチであったが、シャードロにその攻撃はあまり効いていない。
「…!?」
 ジョーは敵の様子がおかしいと思いつつも今度は駆け出し、距離を詰めて接近戦に持ち込む。
「てやああああッ!!」
 ブニュウゥゥゥ…
 今度はジョーの強烈な右足の跳び蹴りがシャードロの顔面に命中。
 しかしジョーの蹴りはシャードロの柔らかい身体には全く効果が無く、そのままジョーを弾き飛ばした。
「うわああぁッ!」
 弾き飛ばされたジョーは大岩に突っ込み、岩はジョーが突っ込んだ衝撃で砕け破片が飛散した。
 身体中が砂埃に塗れながらもナックルジョーは立ち上がろうとするが、シャードロに関するある可能性に気が付いていた。
「マズいな……俺の攻撃は奴には相性が悪くてあまり効かねぇみてぇだ…」
 シャードロに自分の攻撃が効かず苦戦するジョーを見てシリカがピーザーの攻撃を掻い潜りつつ駆け寄り、立ち上がろうとしているジョーに手を貸して身体を支え、起こすのを手伝った。
「ジョー!大丈夫?」
「あぁ、まだ大したことはねぇよ。でも参ったな…恐らくあいつには俺の直接打撃やエネルギーを使った攻撃は効いてない」
「…ジョー、私に任せて」
「え?」
「この前の戦いであいつには私の攻撃は充分通用してるようにも見えた…。多分私ならあの魔獣を倒せる。その代わりにジョーはあのカニをお願い!」
「お、おい!待て!」
 クロスガンからナイフを伸ばし、何か話そうとしたジョーを置いていってシリカはシャードロの方へと走り出す。
「…ッたく。その根拠は?って訊きたかったんだけどな。でも俺が何とか出来るような相手じゃないのはわかったし、信じてるぜシリカ」  シャードロの相手をシリカに任せたナックルジョーはピーザーがいる池の方に向かった。


 〜MTS 惑星アクアリス支部〜

 ギガゴルドと2体のメガシルバを転移魔法で転送した後、マルクは惑星アクアリス支部の資料室にいた。
 そこで彼が読んでいたのは黒い表紙で、分厚く古そうな見た目の本。
「(ギャビールの奴を操るには各星々の住人達と同じようにブレノウの力を使っても良いが……それでは洗脳の効力が弱い分、ナックルジョーとシリカの2人が洗脳から解放された時の二の舞になる可能性も出てきて意味が無くなってしまう…。折角手に入れたんだ、彼は手放したくはない。父さん達の黒魔術の研究成果の中で参考になるデータは無いものか……)」
 本の中の気になるところだけを読み、調べるマルク。
 ページをめくっていると、ある項目に目が留まった。
「…これだ」
 マルクは本を持ったまま部屋の外に出て、そこで転移魔法を使いアクアリス支部の建物の外にまで出てしまう。
 外に出たマルクは地面に本を自分の目が留まったページを開いたままで置き、魔法で矢を1本出現させる。
「今日が晴れていて助かった…。まあ雨でも魔法で何とかしていたけど」
 そう独り言を言いながら彼は靴を脱ぎ、その矢を自分の足に刺した。
 ブシュゥッ!
「………ぅぐッ……!!」
 マルクの足からは彼の赤い血が噴き出し、矢に自分の血を充分に付ける。
「これで良し…」
 足の傷口に回復魔法を使いつつ、マルクは矢をペン、自分の血をインク替わりにして怪しい陣図を地面に描く。
 陣図を描き終わると、マルクは本を持ってその真ん中に座り、目を瞑りながら呪文のような言葉を唱え始めた。
 呪文のような言葉を唱え終わると共にマルクはカッと目を開く。
 するとマルクの血で描かれた陣図は禍々しい黒いオーラを発し、陣図を描いていた血は地面から消え、黒い霧のようなものに変化。
 やがて血が変化したその黒い霧は一点に集まり、霧よりも濃い靄へと変わって中心には1つ目と口が出現した。
 それを見たマルクは術が成功したことを確信する。
「成る程。これがあのダークマター族の能力を基にし、マジカルーマ族が研究して作り上げた洗脳用の魔法生物…『エビルミスト』だな。使い方は把握出来てるし、こいつを試してやろう」
 儀式のような手順を踏むことでエビルミストと呼ばれる魔法生物を作り出したマルクはそれと共に転移魔法で再び建物内へと入った。


 魔獣達相手に奮闘するカービィ達は次第に魔獣達の攻撃の前に疲労が溜まって疲れ始めていた。
「スマッシュパンチ!」
「バタバタァッ!」
 カービィのスマッシュパンチをバタファイアは素早く飛んで避け、隙が出来たカービィに近づいて炎を纏った牙を突き立てる。
「あちッ!あちッ!!」
 バタファイアの口に咥えられ、牙の灼熱の炎に苦しむカービィ。
 先程のバルカンジャブやスピンキックの連射で気力を大きく消費してしまったカービィにはバタファイアを振り払うことも困難であった。
「カービィ!魔獣の口の中を狙って!」
「バルカンジャブ!」
 フームの指示通り、カービィはバタファイアの口の中をバルカンジャブで攻撃する。
「ガアアァァ!!」
 バタファイアから逃れられたカービィだったが、口の中を攻撃されても相手はまだ倒れず、平気で火の玉を口からいくつも吐いて来た。
 ボオオォォッ!!
「うわあああッ!」
「カービィ!!」
 バタファイアの火の玉の前に倒れたカービィにフームが駆け寄り、無事を確認しようとする。
 カービィは立ち上がったが、フームから見て彼はもうフラフラで、体力は限界寸前のように見えた。
「バタバタ!」
 カービィとフームに近づくバタファイア。
 ドカッ!
「バタァッ!?」
 その横からは新ワープスターが突っ込み、バタファイアを跳ね飛ばして2人を救った。
「カービィ、大丈夫なの?」
「ぽ…ぽよ…」
 カービィも傷だらけだが、相手のバタファイアもカービィの技を何度も受けていたためかふらついていた。
 カービィは次の一撃でバタファイアを倒そうと右手にエネルギーを集め、前に駆け出した。
 バタファイアもカービィに再び噛み付こうと低空飛行で襲ってくる。
 バタファイアの噛み付き攻撃を姿勢を低くしてかわしたカービィはエネルギーを集めた右手をそのまま突き上げる。
「ライジンブレイクッ!!!」
「グガアアァァァ!!!」
 ドガアアァァァァァンッ!
 万全の状態だったらライジンブレイクに耐えていたバタファイアだったが、ダメージが蓄積していたこともあって今度は耐えられることが出来ず、身体が爆発して倒された。
 戦闘で疲れていたのと、バタファイアが倒されたことでホッとしたのか、カービィは安心した表情でその場に座り込んでしまった。

 シリカの頼みでピーザーと戦っていたナックルジョーは硬い身体を持つ相手の弱点を見つけようとバルカンジャブやスマッシュパンチ、スピンキックを試しに撃ち込んでは敵の攻撃を避けての繰り返しをしていた。
 しかし攻撃は通じず、ジョーもピーザーの攻撃を防いだり回避したりするので精一杯で、防戦一方の状態が続いていた。
 今もピーザーが両手の鋏を開いて撃ってきた冷凍光線を避けたところだ。
「(奴の弱点はいったいどこなんだ?一通り怪しそうな場所は攻撃したが…。それにあいつはあの池から一切動こうとしない…!奴を引き摺りだすために、次は近くで…)」
 今度は近づいて直接殴って試そうと考え、跳躍して右手を突き出したジョーであったが、ピーザーは無防備なジョーのいる上空に目を向ける。
「ピー、ザー!!」
「うわッ!?」
 ブクブクブクブクブクッ!!
 ピーザーは口からナックルジョーに向かって大量の泡を吐き出した。
 ナックルジョーはピーザーの泡に全身を包まれ、ピーザーの目の前の地面にそのまま落下する。
「ぶへッ!ゲホッ、ゲホッ!」
 顔の部分だけ泡を払い除けたナックルジョーだったが、口の中に泡が入ってしまい咳き込む。
 そしてピーザーの泡は石鹸などから出てくるそれとは違って全身に纏わり付き、ヌルヌルして気持ちが悪い。
「(ぐッ…動きづらい……この泡の所為なのか…!?)」
 ジョーは全身に纏わり付く泡の影響で素早い動きが出来なくなってしまう。
 しかし目の前にはピーザーがおり、その目をジョーに向けてカッと光らせた。
 ビイィィィィィッ!!
「ぐあああぁぁッ!!」
 ビームを浴びたナックルジョーは身体が痺れてしまい、その場で倒れる。
 それを見たピーザーはジョーの身体を鋏で掴み、池の中へと引き摺り込んだ。
 ゴボゴボゴボ……
「ん……んぐッ……!!」
 池は思ったよりも深く、ジョーはあっという間に水中に引き込まれてしまう。
 引き込まれる寸前にとっさに息を止めたが、この状態で何分息が続き持ち堪えられるかはわからない。
 水の底まで引っ張られ、ジョーはそこで解放される。
 だが、水中では明らかに相手の方が上手であった。
 泡は洗い流されたものの、水圧と水で重くなった服がジョーの動きを鈍くさせる。
 普段重い物を持ったり、重りを身に付けたりしてトレーニングをすることも多い彼ではあるが、水で重くなった服はともかく、水圧だけにはどうしても逆らうことが出来ない。
 動きが鈍ったジョーにピーザーは左の腕を伸ばして攻撃してくる。
「んぶッ………!」
 ピーザーの攻撃を避けきることが出来ずまともに食らってしまったナックルジョー。
 しかし空気を吐き出すのは寸前で堪えた。
 だがピーザーの攻撃はそれだけでは終わらない。
 吹っ飛んだジョーに向かって次は右腕の方を伸ばし、叩き付けるように攻撃してきた。
 ドゴオオォォッ!!
「ごぼッ…ごぼごぼッ……!」
 2度目の攻撃にナックルジョーは耐えることが出来ず、口から空気を吐き出してしまった。
 このままでは息が出来ぬまま彼は溺れてしまう。
 苦しむナックルジョーをピーザーは腕を伸ばし鋏で捕まえ、自分の目の前まで持って来て胴体を締め上げる。
「ぐ……ん…んんんぅ〜ッ!!」
 水中で息が出来ないことと鋏で締め付けられてることで声も出せず苦しむナックルジョー。
 完全に追い込まれてしまった彼であったが、右の拳に青白いエネルギーを集めて反撃の準備をしていた。
 エネルギーを溜めたジョーは右腕をピーザーに向かって突き出す。
 ドシュウゥゥンッ  ドガアァァァンッ!!
「ザアァァッ!?
」  ピーザーの身体にナックルジョーのパワーショットが命中し、爆発する。
 水中でもその強力な青白い波動は威力が落ちることはなく、ピーザーの硬い身体を突き破って傷を負わせた。
 予想外の攻撃にピーザーは怯み、ナックルジョーを鋏による締め付けから解放してしまう。
 その隙にジョーは泳いで池の水面へと浮上した。
「ぷはッ!はぁ…はぁ……今のは………ヤバかったな……はぁ…」
 呼吸を整えながらびしょ濡れのナックルジョーは池から這い上がり、追ってくるであろうピーザーを待ち伏せる。
「ピィィィィィザァァァァァァッ!!!」
「でやあああああッ!!」
 ピーザーはすぐに浮上してきた。その様子をジョーはただ待ってたわけではない。
 ジョーは右の拳を構えて跳躍、先程パワーショットを撃った部分にそれを叩き込んだ。
「ピイィィィィィィッ!?」
 ザバアァァァァァァンッ!!
 ナックルジョーの強烈な剛拳を硬い部分が砕けて出来た傷口に喰らったピーザーは気絶して池の中へと沈んでいき、水中で木端微塵に粉砕された。

 相性が悪く苦戦したナックルジョーに代わってシリカはシャードロと激しく戦っている。
 シリカがシャードロに挑んだわけはジョーを助けただけでなく、彼女はシャードロとはこれまで2度に亘り交戦したが、1度目の戦いでは敗北を喫し、2度目の戦いでは仕留められず取り逃がしてしまったという苦い思いをしてきたため、やって来たのなら今回で決着を付けたいという個人的な気持ちも半分程あった。
「(今日はガメレオアームとは一緒じゃないのか…?だが奴は姿を消す能力もあるだろうし…)」
 シャードロといつも一緒にいたガメレオアームの姿が見当たらないことにシリカは不信感を抱き、周囲をキョロキョロと確認する。
 そして警戒をしながらも、シャードロの方に向き直った。
「もう逃がさない!今日こそお前との決着を付ける!たああぁぁッ!」
「フシシシ…」
 クロスガンからナイフを伸ばして斬りかかるシリカだったが、シャードロはそれを見越してか口から黒い弾丸を発射した。
 ズガアアァァンッ!
「ぐッ…!」
 爆発により発生した砂埃の前に動きを止められるシリカ。
 砂埃が晴れ、視界が良くなったかと思えばシャードロは目の前から姿を消していた。
「!!どこだ…?……まさか!!」
 ガブウゥゥッ!!
 シリカが気付いた時にはもう遅く、シャードロはシリカの影と一体化して彼女の右の脇腹に噛み付いていた。
「ぐ……うわあぁッ……!!」
 噛まれた局所の橙色のボディスーツは破け、傷口からは赤い血が流れ出し、激痛でシリカはクロスガンを落として傷口を押さえながら前に倒れた。
 倒れたシリカにシャードロは黒いナイフのようなエネルギーの刃を出現させ、刺そうとする。
 それに気づいたシリカはクロスガンを拾い直し、攻撃を紙一重で避ける。
「油断していた……ジョーもさっきアレにやられたというのに……」
 左手で右の脇腹の傷を押さえ、シリカは起き上がった。
「フシシシシシ」
 素早く動けないシリカにシャードロは再び黒い弾丸を撃ち出す。
「うあああぁッ!」
 弾丸を避けることが出来ず、その爆発にシリカは吹っ飛ばされてしまう。
「ぐッ……はぁ…はぁ…」
 傷だらけになりながらも、クロスガンを地面に刺して杖代わりにしながらシリカは態勢を立て直そうとしたが…。
「フシシシシシ」
 ドゴオォォッ!!
「がはッ………!ぁ……」
 シャードロは無防備になったシリカの腹部に頭突きをかましたのだ。
 鳩尾にシャードロの頭は減り込み、シリカは一瞬呼吸が止まってしまう。
 シリカはそのまま左手で腹部を押さえ、右手は地面に手を付き苦しみ始める。
「…ぅ……げほっ、げほッ!」
 呼吸が出来るようになり、シリカは咳き込んでから立ち上がる。
「フシシシ……」
 動けないであろうシリカから離れてシャードロは身体を伸ばし、巻き付こうとしてきた。
「(これは……前回と同じような状況…?これなら……!)」
 態勢を立て直したシリカは襲い掛かってくるシャードロを敢えて待ち、クロスガンを構える。
 シュルシュルシュルシュルッ
「くッ…!」
 ガシッ ザクゥッ!
 攻撃を避けたシリカは伸びたシャードロの身体を掴み、クロスガンから伸ばしたナイフで切断した。
「ヌアアアアアッ!!」
 前回のシリカの戦いと同様に身体を切断され、シャードロは悲鳴を上げる。
 すかさず前回と同じく影のある場所に逃げようとするが、シリカはそれを見逃さなかった。
「もう逃がさないと言っただろ!」
 逃げるシャードロを追いかけ、左手で掴んで捕えるシリカ。
「ヌゥゥゥ…!!」
「うおぉおぉぉッッ!」
 ズバッ!ブシュウゥゥゥゥッ!
「ウグウゥゥゥゥ………」
 その後1回斬られただけでなく、シリカによって滅多斬りにされたシャードロは破片全てが爆発し、今度こそ完全に倒されたのだった。

「大丈夫だった?皆…」
「ぽよ〜…」
「今回の魔獣はなかなか強い奴等だったな…。結構しんどかったぜ」
「はぁ〜…疲れた…」
 心配するフームと、傷だらけの上に疲弊していることが確認出来るカービィ達3人の星の戦士。
 用事は済んだため、すぐに休養すべく城へ帰る筈だったが…?

 魔獣が倒されたところを見届けたデデデ大王とエスカルゴンはすぐさまデデデカーで退散し、車での移動中に今回も魔獣がカービィに勝てなかったことに不満を漏らしていた。
「今日も魔獣は全員やられてしまったぞい!エスカルゴン、今からグリルの奴に文句を言いに行くぞい!」
「いや〜…しかし陛下?グリルには『クレームを言うなら買うな』とか言われるんじゃないでゲしょうかね?」
「うッ…それは嫌ぞい!ナイトメア社の時みたいにまた新しい魔獣を買うワシの唯一のお楽しみが無くなってしまうからな…」
「なら、ナイトメア社の時と同じように例え魔獣の品質が悪くても、魔獣の値段が高くてもクレームなんか言わないようにするでゲス」
「う〜む…それもスッキリしないぞい」
「じゃあどうすれば良いんでゲスか、もう!わたくしに愚痴ってもどうにもならないでゲスよ!?」
 運転中のエスカルゴンがデデデ大王の我儘に付き合ってられんと言わんばかりに叫んだ。
 しかし、デデデ大王はエスカルゴンが乗車している運転席ではなく、反対側の景色の方をジッと見据えている。
「…ちょっと陛下?聞いてんの?」
 景色を見据えていたデデデにエスカルゴンが思わずタメ口で問いかけると、デデデは静かに喋り出した。
「…エスカルゴン」
「あぇ?な、なんでゲしょうか?急に改まったりなんかして…」
「今後も魔獣がカービィやメタナイト達に倒され続けるとなればどうするぞい…?」
「はい?そ、そりゃあ…陛下が好みだと思ったり、強そうだと思った魔獣をMTSから買い続けて、あのピンクボール達と戦わせれば良いのでは?」
「それでもダメだったらどうするぞい?」
「あ、あのぉ〜…陛下?さっきから何が言いたいのでゲしょうか…?わたくしにはサッパリなんでゲスが…」
「ワシ自らが直々にカービィ達と正面から戦う……というのは出来ないかぞい?」
「……はぁ?」
 何が目的なのかはわからないが、何かを決意し謎の闘志を燃やすデデデ大王と、彼の考えてることやしたいことが全く理解出来ず首を傾げるエスカルゴン。
 2人はデデデカーに乗っている最中はそれ以降会話が続かず、そのまま城へと帰って行ったのだった…。


 〜MTS アクアリス支部〜

 エビルミストを儀式により生み出し、アクアリス支部の建物内に入ったマルク。
 しかし、彼にある異変が起きる。
「…ぐ…がぁッ……あがぁぁ………ッ!!」
 マルクは突然その場でしゃがみ、苦しみ出し始めたのだ。
「ぐッ……やはり禁断と言われている黒魔術なだけはある。本に書いてある通り、この魔法は使用者の心が闇へと染まり切っていないと使った場合、使用者が呼吸困難にも似た発作を起こすみたいだな…」
 だがマルクの言う彼自身に起きたその発作もすぐに治まったようで、彼は立ち上がった。
「僕ですら使ってこのザマなら、この術は当分の間は使わないようにしよう…。本当に父さん達はこんな術を使う気があったのか…?それに副作用が起きるということは、僕がまだ心が完全に闇へと染まっていなかったということに…!」
 呼吸も元通りになり、マルクはエビルミストを生み出す儀式は暫くやらないことを決め、転移魔法を使用してギャビールが幽閉されている牢屋へとエビルミストだけを転送し、自分は司令室の方へと向かう。

 司令室に着いたマルクは機械を起動し、ギャビールのいる牢屋へと通信を繋げた。
 牢屋の様子を見ると、ギャビールは椅子に座り俯いたまま休んでいるようだった。
 そしてマイクの方へと口を近づけ、ギャビールに牢屋のスピーカー越しに話し掛ける。
「ギャビール。まだ生きているか?」
「あぁ…生きている…」
「じゃあ椅子ごと牢屋の正面じゃなく壁の方を向いてくれ」
「何をするつもりだ…?」
「良いからやるんだ。お前は僕には逆らえない立場だろう?」
「…わかった。お前の言う通りにしよう」
 ギャビールはマルクの言う事を聞くことを承諾していたこともあり、渋々椅子ごと後ろを向いた。
「よし。一瞬で終わるから大人しくしているんだ」
 マルクが言葉の後にギャビールの背後からはエビルミストが迫り、その後エビルミストはギャビールの身体に入り込むように消えてしまう。
 ズズズズズズ……
「ぐ…ぐおおおおおおッ!!??」
 エビルミストが消えてからギャビールは苦しみだし、椅子から転げ落ちて床でのた打ち回った。
「貴様……私に一体…何をぉぉッ………!?」
「お前に新しい力を分け与えた。その力でお前はこれから僕たち組織の役に立つんだ」
「新しい……力…!?」
 マルクが発したその言葉を聞いたのを最後にギャビールは意識不明となり、静かに目を閉じ眠ってしまう。
「ギャビール…次に目が覚めた時、お前は完全に僕の道具となる」
 意味有り気な言葉を残したマルクはギャビールを起こす為に転移魔法で牢屋へと移動。
 眠っているギャビールを強引に蹴り起こしたことで、ギャビールは目を覚ました。
 目を覚ましたギャビールは目付きは釣り上がり、目は瞳が消え、黄色一色に染まっていた。
「気が付いたか。今日からお前は僕の組織の魔獣の1体だ、魔獣戦士ギャビール」
「グルルルルル…」
 マルクの言葉に唸り声だけを出して応じるギャビール。
「まずお前はホットビート支部に行って、今別の任務をしている執行人のガメレオアームの代わりをやれ。また違う仕事をしてほしい時は僕が声を掛けよう。良いな?」
 マルクの言った事にギャビールは黙って頷く。
 それを見たマルクはニヤッと笑い、転移魔法をギャビールにかけて惑星ホットビートまで転送した。
「奴の性能を試した後、そのうちポップスターに送ってカービィ達と戦わせて同士討ちを狙おうか…。奴のことを知るメタナイト卿は特にショックを受けるに違いない……ククク…」
 企むマルクは転移魔法でハーフムーンのウィザード・フォートレスへと戻っていった。
 MTSの手に堕ちた元星の戦士・ギャビール。
 マルクが考えてる通り、彼はマルクの道具として、カービィ達との同士討ちに利用されてしまう日はそう遠くない…。





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